離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
すれ違いのスイートルーム
夕方の気配を漂わせる街を車で走ること、およそ二十分。
薄暗い景色に少しずつ街灯の明かりが灯り始めた頃に連れてこられたのは、都内有数のラグジュアリーホテルだった。
地下の駐車場からエレベーターでエントランスフロアがある二階へ移動し、照明を反射して輝く大理石の床を歩く。
この場所に来るのは初めてではないけれど、珀人さんの目的がわからない。
「あの、ここは……?」
「覚えてないって顔だな」
「そんなことありません。だって、結納と顔合わせを兼ねてお食事会をした場所ですから」
お互いの父親が忙しいので、夕方からの結納だった。午後五時ごろから個室に集まって、和やかなムードの中、無事に段取りを終えて最後に会食したのは覚えている。
ただし、私はものすごく緊張していたし、きっちり着付けた振り袖に締め付けられたウエストがきつくて、あまりきちんと食べられなかったけれど。
「その後のことは?」
「後……ですか?」
確か、振り袖から動きやすい私服に着替えて両親の待つロビーに戻ったらなぜか彼らがおらず、私と同じように袴姿からスーツに変わっていた珀人さんがひとりでそこにいた。
彼によると、私の両親も珀人さんのお父様も私たちをふたりきりにさせようと気を利かせて先に帰ったらしい。
親のいる場では話しづらかっただろうから、これから一緒にお酒でも飲んだらどうかと。