離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
『悠花さんはどうしたい? 疲れているなら、タクシーでご自宅に送ります』
正直なところ、私としては両親たちに感謝していた。
このまま帰ってしまうなんてもったいない、珀人さんともう少し一緒にいたいと、これから結婚するにもかかわらず思っていた。
『あの、珀人さんさえよければ、食事のできるところに行きませんか? 私、着物が苦しかったのでさっきはあまり食べられなくて……』
『わかった。それじゃ、上のダイニングバーに行こうか』
珀人さんに腕を差し出され、初めて腕を組んだ。
それから最上階のダイニングバーに出向いたんだよね……。
窓から見える夜景がとても美しく、上質で洗練されたされた店内の雰囲気も素敵だった。
私は結納の時とはまた別の緊張でガチガチになりながら、窓際のソファ席で彼と向き合ったのを覚えている。
でも、どうしてだろう。……その後の記憶があまりはっきりしない。
「ダイニングバーに行ったところまでは覚えています。私たち、それからどうしたんでしたっけ……?」
いつまでそこにいたのか、珀人さんとなにを話したのか。大切な記憶のはずなのに、全然覚えていない。
言葉に詰まる私を見て、珀人さんはフッと笑った。
「覚えていなくても仕方ない。きみは俺に合わせようとして強い酒を頼んで、すぐに潰れてしまったんだ。やめろと言ったのに『大丈夫です』と強がって」
「えっ。そ、そうでしたっけ……?」
「もう一度行ったら、思い出すかもな」
彼がそう言って微笑んだのは、エレベーターの前だった。今からそのダイニングバー行くのだとようやく理解して、ドキドキと胸が鳴った。