天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~
「はぁん! 手触りも最高です。絹糸のような繊細さ。艶めかしい光沢にああ、片側の耳だけ見えるように結いあげる? おでこをぜんぶ見せるのも大人っぽいわ。なにもしても美しいのはやはり神の領域――」
そう言い切って、ハァと深く息を吐く。
「合掌――」
私は驚き鏡を見ると、ルピナは両手を合わせ目を瞑り頭を下げていた。
ルピナの奇行は見慣れてきたが、謎は謎のままである。
三秒ほどルピナは頭を下げてから、満足げに顔を上げた。
鏡越しに視線がからみ、ルピナはバッと赤面した。
「あのですね? これはですね? 髪結いの儀式でありましてね?」
オロオロと言い訳するルピナに思わず笑ってしまう。
「……そうか」
その後ルピナは私の髪に首ったけになり、黙々と髪を編んだり結んだりしている。
大事に扱われる髪に嫉妬しつつ、これも自分の一部かと思うと複雑な気分で再び瞼を閉じた。
ルピナの手が離れた気配がする。
しかし、再度毛先に触れる気配がする。
長い後ろの毛をルピナが持ち上げているようだ。
妙に静かな空気に不思議に思い、薄目で鏡を確認すると、ルピナが愛おしそうに私の毛先に鼻先を寄せていた。
見られていないと思い油断しているのがわかるから、ちょっとした悪戯心で目を閉じ告げる。