私の婚約者は、嘘ばっかり〜クズだけど優しい彼〜
「あ、あれ祭りやってるじゃないですか!」

薄暗くなり始めた駅前でまぶしい灯りの周りに人だかりが出来ていた。

そーいえば今日はお祭りだっけ?夏の風物詩だもんね、そんな時期だよね。

「衣咲さんりんご飴買いません?」

「え、私はっ」

「俺りんご飴好きなんですよね~!」

「へぇ、そう…っ」


―…!


触れるみたいに私の手を掴んだ。
そのままぐいっと引っ張って、大きく一歩踏み込んで走り出す。

「ちょっと待って七瀬くん!七瀬くんてばっ」

ぎゅっと掴まれた腕は引っ張ったくらいじゃ離してもらえない、だから連れられるがままに七瀬くんの後ろを駆けるしか出来なくて。七瀬くんの後ろ姿を見ながら走った、暗くなった影の中じっと見つめるみたいに。

「りんご飴1つ」

「あ、私買う!」

もちろん、今日の報酬は報酬ででちゃんと支払う。
だけどそれとは別に、濡らしてしまった服が…七瀬くんはクリーニング代なんかいらないって言うから。

「じゃ、ごちそうさまです」

にこって笑った、たぶん心を読まれた。これでなかったことにしようって、そう言うみたいに。
< 34 / 52 >

この作品をシェア

pagetop