無口な人魚姫と粗暴な海賊
「そうだ。ミーシャ。パールに関して言って置くことがある。」


 ダリオスはドカッと豪華な椅子に腰掛けた。

 ミーシャのいる手前、先程のように足をテーブルに乗せることはしないが、腰は深く椅子に預けている。


「なんでしょう?」

「パールの部屋に入る時は扉を叩かなくていい。」


 ミーシャが不思議そうに首を傾げる。

 それがミーシャに根ずいた常識であり礼儀であるから当然の反応であった。

 気にせずにダリオスが続ける。


「パールを連れてきたあの日。あいつは歌ってた。この世のものとは思えねぇくらい綺麗な歌声で。
 名前を聞いた時も、波にかき消されそうなくらい、ちいせぇ声だったが『……。……パール。』って言ってくれたんだ。」


 ダリオスは腰を起こすと、ミーシャの前髪に隠れそうな瞳をしっかりと捉える。


「だから、パールは喋れんだとは思う。こっちの言葉も分かってるしな。
 でも、あいつは喋ろうとしねぇ。何が原因かは知らねぇが、あの日、助けて欲しいって顔してたからそれが関係してんだとは思う。」


 パールの事実にミーシャが悲しげな顔をする。

 ミーシャも喋りたく無くなるくらい辛い思いをしたことがあったから。


 しかし、人の痛みはそれぞれ違う。

 感じ方が違うのだから痛みの伴い方も変わる。

 ミーシャの痛みとパールの痛みは同じようできっと違う。

 パールの方が辛い思いはしていない。

ミーシャの方が辛い思いをしていた。

パールの方が辛い思いをしていた。

ミーシャの方が辛い思いはしていない。


 そんなことは関係ない。

 痛みに、軽いも重いもないのだから。


 だから、ミーシャがここで分かると共感できることは無い。

 しかし、同じような痛みを経験した者という共通点で、パールの心に少しでも寄り添うことができたらいいと思う。


「パールが喋りたくねぇなら俺は強要はしねぇ。パールが話してもいいって思えるまで待つ。
 だから、扉は叩かなくていい。喋りたくねぇなら、返事すらしなくていいんだ。」


 ミーシャはダリオスのパールを案じる心さえも溶かすような、優しい笑みを浮かべた。


「承知致しました。パール様のお心に添えるよう尽力致します。」


 ダリオスは頷くと、テーブルの上に無造作に置いた書類に再び目を通し始める。

 ミーシャは優雅に一礼して部屋を出た。

 その足取りは軽く、まだ見ぬ主人に思いを馳せるのであった。
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