無口な人魚姫と粗暴な海賊
 夕食を摂るべく、パールがダリオスに連れられてやってきたのは食堂――ではなく、食堂の隣にあるこじんまりとした部屋。

 今しがた通り過ぎた食堂では、ダリオスの仲間達がエール片手に、大きなお肉を頬張りながら楽しそうに食事をしていた。

 人間の食事が分からないパールにとって、皆との食事は抵抗があった。

 朝食、昼食共にダリオスがご丁寧にパールの部屋まで運んでくれていたのが一変。

夕食を食べに行くと言われた時は驚いたが、一先ずあの空間で食事をすることにはならなくてホッとする。


 連れてこられた部屋をダリオスの腕に抱えられたまま見渡す。

 簡素な部屋だが、床にはピンクの可愛らしいふわふわしていそうな絨毯が敷かれており、窓についたカーテンも花柄の可愛らしい模様をしている。

ダリオスの趣味には全くそぐわない可愛らしい部屋だった。

見れば見るほど、ワイルドで豪快なダリオスには全く似合わない。

それでも、この部屋が存在しているということは何か理由があるはずだ。

例えば、ダリオスは実は可愛いもの好きとか。

そう考えたパールだったが、今までの行動や言動からそれは無いだろうという結論に至る。

では、恋人がいるのだろうか?

恋人がいたらこんなにパールの元には訪れないだろう。とこれもまた違うという考えに至る。

気になったパールはこうなったらもうダリオスに聞いて見ようと口を開いた。

しかし、疑問が口をついて出ることはなかった。


 
 部屋の中央には豪勢な料理がぎっしり並べられたテーブルと二脚の椅子が置いてある。

木製のテーブルと椅子はどこか温かみがあって、温もりを感じるようだ。

 ダリオスはパールを抱えたまま器用に足で椅子を引く。

 そして、そのままダリオスがそこに腰掛け、パールはダリオスの膝の上にちょこんと収まる。


 パールの人間への知識はとても乏しい。

 しかし、膝へ座るという行為が知人や友人同士で行われるものではないと、パールでも分かる。


「アンタは何が食べたい?」


 パールの困惑には気づかないフリをして、ダリオスがさも当然というように問いかける。

 ダリオスはこの船のカシラ(船長)だ。

 その彼がこれで言うというのなら、パールも気にする必要は無いだろう。

 膝の上にいることは隅へと追いやり、食事に集中することにした。
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