夜を繋いで君と行く
* * *
コンコン、とノックの音がした。それに「いいよ、入って」と声を掛ける。すると、控えめなガチャっという音が聞こえた。
「鍵閉めるよ、全部。」
「うん、お願いします。」
大した距離でもない廊下を歩いて、律はすぐにリビングにたどり着いた。一般的な一人暮らしができる程度の部屋だ。ベージュ系の家具やカーテンで統一されていて、派手さは一切ない。テレビの前にアクリルスタンドが二つあって、それ以外、キャラクターグッズらしいものはない。律の家ほどではないが、物はあまり多くない印象だった。
奥には小さめのテーブルとデスクチェアがあり、デスクの上には本が数冊と手帳らしきものが見える。
「…うわ、全部怜花っぽい。なんか。必要なものだけって感じ。」
「広くないからね。必然的に物は絞るよ。」
怜花はキャリーケースを広げて荷物を詰めていた。少し厚手の普段着が数着あって、ただそのどれもが着ているところを見たことがないもので、外で食事をしていた時に見ていた服とは変わってしまうくらい季節が過ぎていたことに気付く。
「何か運ぶものとか、手伝うものある?」
「ん-…特にないけど、キッチンにあるものでも見る?ちょっと食べたいものとか、気になるものあったら持っていっていいよ。」
「怜花のキッチン…聖域じゃん。」
「聖域って!綺麗ではないけど、律の家よりは色々あるから目新しいとは思うよ。」
壁に掛けられたコルクボードには、風景の写真が数枚貼ってあった。いわゆる観光地という感じでもなく、写真だけではどこのものなのかわからない。
「これ、どこの写真?」
「里依と旅行した時のかな。あ、うん、そうだね。海が綺麗で、なんか残したくて。」
「怜花の写真はないの?」
「…残念ながら、自分を撮る習慣がないから、自分が写ってるものってないの。」
自撮りなんかしたことがない。自分のこと自体好きではないのに、そんな自分を残したいとは思わない。見たもの、感じたものの美しさだけは残したくて、あの時はシャッターを切ったけれど。
「俺もない。自撮りとか。…じゃあさ、怜花がもうちょっと元気になったら一緒に写ってよ。怜花との写真なら、俺は残したい。っていうか個人的には、怜花ソロショットを持ち歩きたいけど。」
「い、嫌だよ一人でとか!」
「え〜なんか寝顔とか?そういうの、前はなんでそんなの撮るんだろうとか思ってたけど今はわかる。自分しか見れないから、たまに見返したくなるみたいな。ていうか怜花の方が起きるの早いから、寝顔まだ見れてないかも、俺。」
コンコン、とノックの音がした。それに「いいよ、入って」と声を掛ける。すると、控えめなガチャっという音が聞こえた。
「鍵閉めるよ、全部。」
「うん、お願いします。」
大した距離でもない廊下を歩いて、律はすぐにリビングにたどり着いた。一般的な一人暮らしができる程度の部屋だ。ベージュ系の家具やカーテンで統一されていて、派手さは一切ない。テレビの前にアクリルスタンドが二つあって、それ以外、キャラクターグッズらしいものはない。律の家ほどではないが、物はあまり多くない印象だった。
奥には小さめのテーブルとデスクチェアがあり、デスクの上には本が数冊と手帳らしきものが見える。
「…うわ、全部怜花っぽい。なんか。必要なものだけって感じ。」
「広くないからね。必然的に物は絞るよ。」
怜花はキャリーケースを広げて荷物を詰めていた。少し厚手の普段着が数着あって、ただそのどれもが着ているところを見たことがないもので、外で食事をしていた時に見ていた服とは変わってしまうくらい季節が過ぎていたことに気付く。
「何か運ぶものとか、手伝うものある?」
「ん-…特にないけど、キッチンにあるものでも見る?ちょっと食べたいものとか、気になるものあったら持っていっていいよ。」
「怜花のキッチン…聖域じゃん。」
「聖域って!綺麗ではないけど、律の家よりは色々あるから目新しいとは思うよ。」
壁に掛けられたコルクボードには、風景の写真が数枚貼ってあった。いわゆる観光地という感じでもなく、写真だけではどこのものなのかわからない。
「これ、どこの写真?」
「里依と旅行した時のかな。あ、うん、そうだね。海が綺麗で、なんか残したくて。」
「怜花の写真はないの?」
「…残念ながら、自分を撮る習慣がないから、自分が写ってるものってないの。」
自撮りなんかしたことがない。自分のこと自体好きではないのに、そんな自分を残したいとは思わない。見たもの、感じたものの美しさだけは残したくて、あの時はシャッターを切ったけれど。
「俺もない。自撮りとか。…じゃあさ、怜花がもうちょっと元気になったら一緒に写ってよ。怜花との写真なら、俺は残したい。っていうか個人的には、怜花ソロショットを持ち歩きたいけど。」
「い、嫌だよ一人でとか!」
「え〜なんか寝顔とか?そういうの、前はなんでそんなの撮るんだろうとか思ってたけど今はわかる。自分しか見れないから、たまに見返したくなるみたいな。ていうか怜花の方が起きるの早いから、寝顔まだ見れてないかも、俺。」