夜を繋いで君と行く
「待って待って。なんで俺が好きじゃないってことになったの?」
「え?」
「『行ってらっしゃい』とか『おかえり』とか。」
「だって…。」

 怜花の視線が泳いだ。律の肩あたりに視線がいってしまい、上手く戻せないまま、怜花は小さく呟く。

「…『行ってらっしゃい』って言った時、律、変な顔してた。反応も、変…だったし。」
「ち、違うって!変な顔だったかもしんないけど、…まぁ反応も変ではあったか…。でも好きじゃないとかじゃなくて、…むしろその逆で。」
「逆?」

 律の声に動揺が混じった気がして、怜花は律の目に視線を戻す。すると、心なしか律の頬が赤かった。

「…律?」
「『行ってらっしゃい』も『おかえり』も、…言われ慣れてないの。でも、怜花の言葉を借りるなら、…憧れてたのかも。だからさっきはあんま照れないでただいまって言えたけど、最初の『行ってらっしゃい』は…可愛すぎて照れた、普通に。あと、…なんか、これは過大解釈かもしれないけど、『行ってらっしゃい』って言葉はさ。」
「うん。」
「…行って戻ってくるのを、ここで待つ、って意味かなって思ったから。」
「…待つよ。…だって、律はいつも待っててくれる。できないことも言えないこともたくさんある私を。…だからせめて、仕事に行くとか、そういうところで、…言いたい。…『おかえり』はリベンジする、から。」
「えー…まじか。また照れなきゃじゃん。…さっきの『おかえり』でも充分可愛かったし、破壊力抜群だったからね。」
「さっきのは慌ててたから!」
「…一気にいっぱい頑張ろうとしないでいいよ。俺がキャパオーバーになっちゃう。」

 律の唇が、怜花のものをそっと塞いだ。突然のキスに怜花は目を瞑る暇すらなくて、唇が離れて目を開けた律とそのまま目が合う。

「キャパオーバーはこっちだよ…!」
「俺も結構今日はキャパオーバーだからね?もし仮に、怜花が起きてて玄関まで走ってきておかえり!とか言われた暁にはオーバーキルでした!」
「…そんなに?」
「そんなに。…全然わかってないね、怜花。怜花が思ってる以上に、俺は怜花のしてくれること全部、めちゃくちゃ嬉しいし、何もしてなくても、そこに居てくれるだけで元気になれる。…明日も頑張ろうって、ちょっと笑える。怜花が家に居てくれるこの2日間の俺は、結構無敵なんで。そのくらいの力があるってことは自覚して。頑張ることを止めないけど、小出しで。今日は寝顔パンチ、お姫様抱っこ抱き着きジャブ、おかえりを言いたいっていうハイキックって感じだから。」
「…すごく強いね、私。」
「そうだよ。…最強なの、俺にとって。」

 律の唇が頬に近付いた。離れるときの甘い響きが耳に残る。
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