夜を繋いで君と行く
「…怜花だよ…。」
「でしょうね。早く出たらどうです?」
「…うん。」

 怜花の性格を考えれば、『私に迷惑をかけないで』とは言われないだろう。今怖いのは、『正直に体調が悪いということを言わなかったこと』で、信頼を失うことだ。怜花は会う予定があったからというのもあったが、自分の体調の悪さを先んじて伝えてくれた。電話をしていてバレる、というのも理由の一つではあったのかもしれない。それでも、怜花は素直に隠さず言うことにしてくれた。頑張りたい、と言っていた言葉の通りにずっと頑張っている。

(…好きだってことは素直に言えてもさ…しんどいから助けてって素直になんのは…きつい。)

 通話のアイコンをタップして、重い腕を何とか上げてスマートフォンを耳にあてた。

『律、熱今どれくらいあるの?九重さんに拾ってもらってるよね?一人でいないよね?』

 声を聞くと途端にだめだった。心も体もどれだけこの人を待ちわびていたのか、痛いくらいに思い知らされる。

「…うん、今九重くん、運転中。一人じゃないよ。」
『熱は?』
「病院で測ったときは38度ぴったり。」
『高い!もう!そんなに高いのに仕事行くとか…無茶しすぎだよ!』
「…怒った…?」

 律は恐る恐る問いかけた。語気が強い怜花は初めてで、それがどんな感情からくるものなのかがわからない。だから不安になる。これが取り返しのつかない怒りや呆れだったら、今の体調を考えてもすぐにはリカバリーできない。

『どうして怒るの?』
「え?」
『まぁ確かに、何で朝連絡くれないのとは思ったけど。』
「連絡して…よかったの?休んで俺んとこ来てって?…そんなの、仕事の邪魔になっちゃうじゃん。」

 ぽつりと零れ落ちる本音。電話越しの怜花がはぁーっと息を吐いたのがわかる。

『どうとでもなるし、どうとでもするよ。律の代わりはいないんだから。』

 今ここに怜花はいないのに、声が近いからいるかのように錯覚する。

「…ごめん。事務所から病院向かう間、めちゃくちゃ怜花のこと、頭の中ではよぎったんだけど、それは甘えすぎかなって。」
『普段あれだけ甘やかすし甘えるのに、こういう時に甘えないの変でしょ。ほんとズレてる!とにかく今向かってるから、九重さんの指示に従って、寒くないようにしてて。』
「…うん。」

 電話の向こう側の音が消えた。腕を下ろして、律はまたゆっくりと息を吐きだした。

「怜花さんに怒られましたか?」
「ううん。…ただ、まっすぐに心配してくれてた。」
「でしょうね。」
「…なんで九重くんが自慢げなの。」
「まぁ、怜花さんが怒るはずないって、最初からわかってたからですかね。」
「…なんで九重くんが怜花のこと知った風なの?」
「ほら、僕はマネージャーとして人を見る目も養ってますから。」
「…怜花と仲良くなったの?」
「仲良くはなりたいですね。二階堂さんのダメなところを暴露して、本当に大丈夫ですかこんな男でと確認し、念押しまでしたいと考えてます。」
「…絶対やだ。変なこと言わないでよ、熱上がるんだけど。」
「それは失礼しました。とりあえずあと30分はかかりますんで、寝ててください。」
「…うん。ありがとう。」
< 191 / 204 >

この作品をシェア

pagetop