夜を繋いで君と行く
 律の言葉に怜花の耳がじわじわと熱くなった。嘘をついているわけでも、冗談を言っているようにも見えない。何か言わなきゃと焦る気持ちで口を開きかけたが、何を言えばいいかわからなくなってその口を閉じた。

「怜花?」
「…い、いきなりすぎるし、…律は…そんな簡単に結婚できる存在じゃ…。」
「え、そう?別に良くない?芸能人だっていきなり結婚するでしょ。」
「それはそうだけど…でも、ファンの人とかいるし…。」
「まぁ、応援してくれてる人はいるけど、今一番近くで応援してくれてるの、怜花じゃん。仕事休んでまで駆けつけてくれて、美味しいご飯食べさせてくれて、面倒なこといっぱいやってくれて、それでその先の未来のことまで考えてくれてるんでしょ?…怜花といられる今日一日のことで毎回頭がいっぱいな俺と違ってさ。」
「…ちゃんと…できてた、よね?」
「自分で有能でしょって言ってたけど?」
「…そう、だけど。あの時はなんか、勢いっていうか律に安心してもらうために言ったって感じだから…。」

 しどろもどろになりながらそう答えると、律はふっと笑った。

「実際怜花はさ、生活力でいえば俺なんかいらないくらい有能っていうか、全部一人でできちゃう人だと思うよ。ていうか、全部一人でできるようになった人なんだろうけど。でもだから、お腹痛いとかそういう、怜花がちょっと困ってるときには無条件で近くにいてもいい人になりたいんだよね。それが『彼氏』って肩書で可能ならそれでいいし、『夫』…もしくは『旦那』?っていう社会的な身分があった方がもっと全部任せられるっていうならそっちがいいってだけ。…俺もね、最近は怜花ありきでしか物事考えてないよ。今日は帰ったらうちにいる日だーとか、金曜にはまた会えるーとか、そういうすぐの未来のことだけど。」

 食べ終わった食器をさりげなく重ね、律は席を立った。ジャーと水が流れる音が少しだけして、すぐ戻ってきた。

「それで、頑張りすぎの怜花ちゃんのことを甘やかすモードに入りたいんだけど、何したらいい?近付かない方がいいとかあるなら従うよ?さっきちょっと調べたけど、気持ちがジェットコースターになるとかなんとか?」

 律の言い方に、怜花はくすくすと笑った。

「そういう人もいるけど、私はただただ腰が痛くてだる~ってなるだけだから、気持ちの面ではあんまり変化はないよ。」
「そうなんだ。じゃあ近寄っても大丈夫?」
「うん。いつも通りで大丈夫。」
「…よかった~。近付かないでって言われたら従うけどさぁ…こっち来ないでとか触んないでとか言われたらへこんでたかもしんないし。」

 へこんでしまう律の姿が自然と脳裏に浮かんで、怜花は小さく微笑んだ。
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