夜を繋いで君と行く
「映画1本分だけ、まだ一緒に居たいんだけど怜花は平気?」
「…なんでそんなに戸惑ってるの?」
「…いやだってさぁ、痛いとかだるいっていう症状はあるわけじゃん?でも構ってはほしいんだって。」

 あまりに素直な言い方に怜花はまた笑ってしまう。一緒に居たいのは、怜花だって同じだ。

「どうやって構ったらいいかな?」
「…後ろからぎゅってしながら映画観るのは、ありですか?」
「律があったかい背もたれになってくれるってこと?」

 そう問いかけると、律の表情がぱあっと明るくなった。今から散歩に行こうと誘われた、大型犬のように。

「任せて!はい!」

 律はソファを背にしてカーペットの上に座った。腕を大きく広げた律の前に、怜花はちょこんと座る。少しだけ背中に体重を預けると、温かな腕が怜花を包んだ。

「お腹あたりは触んない方がいい?」
「んー別に平気だよ。律の腕が大変じゃないところで。」
「わかった。寒くなったら言ってね。ぎゅーを強めるので。」
「…ぎゅってするのが弱かったことなんかあったかな?」
「ないね。ないでーす。」

 律の甘い香りと温かな熱がじわりと怜花の体に浸透していく。律が近くにいるとわかる香りを吸い込むと、少しだけだるさが遠のいてくれたような気持ちになる。痛みをそのまま明け渡すことはできなくても、明け渡していいよと言われることは、こんなにも体と心を軽くしてくれることをまた知っていく。

「…こういう体調のときにさ。」
「うん。」
「こうやってただ甘やかす人って、乙女ゲームとか少女漫画とか、そういう世界にしか存在しないんだと思ってた。」
「えぇ?」
「だって、一緒に『寝られない』んだから。」

 怜花の言葉の真意に気付いた律は、怜花の肩に顎を乗せ、深くため息をついた。

「…はぁもう本当にさぁ。…俺が一生分甘やかすから怜花は帳尻合うっていうか、合わせるけど、いつものことながらそういう最悪なやつはさぁ…男全体のイメージダウンになるからやめてほしい。傷つく子も増えるし。…誰も幸せじゃないじゃん、そんなの。」
「…ね。律はこんなに優しいし、慎重だし、ずーっとずーっと私のこと気遣ってくれてるのにね。…律に出会うまでが、長かったなぁ。」

 ぽつりと落ちた、痛みの残る本音。律の腕が少しだけ力を帯びた。
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