夜を繋いで君と行く
* * *

 風呂を終えた怜花がリビングに戻る。怜花の作ったエビグラタンとポトフ、サーモンとほうれんそうのキッシュを食べ、そのままチョコも食べるという流れになるかと思いきや、『一気に全部終わっちゃうのは嫌だ』と律が言ったため、時間を空けるために怜花も風呂に入ることにした。この先のことを思えばざわつく気持ちもあるけれど、それよりも今はきちんとチョコを渡せるかどうか、味は大丈夫なのか、そして何よりも何がそこまで律を疲弊させたのかが気になっていた。律の仕事が忙しいのは今に始まったことではない。それでも帰ってくるときに今日ほどの疲れを見せたことはなかったように思う。

「おかえりー。髪、乾かしちゃったかー。髪乾かすのやりたいって先に言っておけばよかったなー。」
「…今日、疲れてるみたいだから…その、もっと疲れさせるようなことはお願いしないよ。」
「そっか。…怜花、ここ座って。」

 ソファに座ったままの律が、自分の左横をポンポンと叩く。怜花は言われるがままにすとんとそこに腰を下ろした。すると、律は怜花の左肩をそのまま引き寄せた。抱きしめるのではなく、こうやって肩を抱かれるのは珍しくて、怜花の方はどうしたらよいのかわからずに視線を彷徨わせた。

「…律…?」
「…この距離はやっぱり怜花じゃないと無理かも。…はぁ…やっぱり落ち着く。怜花の匂いって。」
「お風呂上がりだから、私のっていうよりは律の家の匂いだと思うんだけど…パジャマもこの家で洗ってるし。」
「…じゃあ、俺の匂いと怜花の匂いは同じになってるってこと?」
「…同じ、…ではないかもね。」

 怜花は少しだけ律の方に鼻を寄せ、スンと一度だけ鼻を鳴らした。

「…自分の匂いはよくわからないけど、でも律の匂いってのもあるよ。…上手く表現できないけど、柔軟剤ともちょっと違う、…いい匂い。」
「いい匂い?」
「うん。…律の匂いはね、私の安心の記憶と結びついちゃってるから、私の安全装置だよ。」
「…そっか。安全装置って、言い得て妙だね。」
「…あの、私、今日は絶対に律にチョコを食べさせたいんですけど…まだ、食べたくない?」

 時計は22時をさしていた。本来この時間にスイーツを食べるものではないが、今日食べさせなくては意味がない。

「…食べたくないんじゃなくて、ちょっとずつ味わってるんだよ。怜花が今日のために夕飯も色々考えて準備してくれたでしょ?それだけでも充分なのに、連続でチョコまで食べちゃったら致死量だよ。だからね、一気には味わえないの。」

 律はそう言うと、そのまま唇を怜花の頬にそっとつけた。
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