夜を繋いで君と行く
「…それは…嫌だね。…そういう風に律に近付かれるのは、…私が嫌、だな。」
「…俺が怜花の元彼を嫌だって思うのと似た気持ち、かなぁ。」
「そうかも。…嫌だね。大事な人が嫌な思いをすることって…私も嫌で、…なくしたいって思う。記憶はすぐに消せないけど、薄れさせることも…そうだなぁ、私は前、お腹痛かった時…。」
「うん。」
「ずっと律が過剰なくらい心配してくれてたことが、少し痛みを和らげてくれたっていうか。もし痛くて動けなくなっても、死んじゃうことはないかなってそういう安心感があったっていうか。…上手く言えないんだけど、痛みをそのまま渡せなくても、和らぐことはあるなって思ったから。だから、安心は私でも渡せるよ。…あんまり、頼りないかもしれないけど。」
頑張りたい気持ちはずっとある。空回っている気もするけれど、少なくとも嫌そうな顔をしていない律の表情で、自分のしていることは間違ってはいないと思って進むしかない。
「…手首の裾、引いて?」
「え?」
「こっち側。」
差し出された律の右手側の裾を、親指と人差し指でつまんで少しだけ引く。
「こ、こう?」
「うん。…ね。怜花はさ、ちょっと控えめに引くんだよね。いいかな、大丈夫かなって推しはかってるっていうかさ。だから…いいんだよ、それは嬉しいことなんだよって伝えたくて、抱きしめちゃう。」
「もっと強引だったってこと?」
「うん。…それで、俺の苦手な匂いがぐっと近寄ってくるの。…腕、咄嗟に叩いて振り払っても俺、怒られなくない?」
「怒られないよ!…というか…な、なんかさ…。」
「うん。どうしたの?…なんか、見たことない顔してる。」
聞けば聞くほど、心の中がモヤモヤする。イライラとは少し違う。不安からくるもやっとした、霧のような気持ちではなくもっと黒く滲んで、得体の知れない感情だった。
「…なんかすごく…その、律のせいじゃないってわかってるし、律も嫌だったって知ってるけど…嫌、だな、やっぱり、私も。…だって律は私のっ…。」
「私の?」
その先を口走る前に怜花は慌てて言葉を飲み込んだ。その先は勢いがあったとしても恥ずかしすぎる。
「…その先、まだ続く?それとも『私の』で終わる?」
「ちょ…ちょっと待って!今、立て直すから!」
「立て直さないでよ。私のだよって宣言されても嬉しいし、その先続いても、泣いたの吹っ飛ぶくらい嬉しいと思うし。」
まだ涙が残る律がそっと微笑むから、怜花は退路を断たれてしまった。律が笑ってくれるのなら、律が明日からの仕事を頑張れるのなら、そのためにやれることはやりたい。それが今できるのは自分だけ、かもしれないから。
「…俺が怜花の元彼を嫌だって思うのと似た気持ち、かなぁ。」
「そうかも。…嫌だね。大事な人が嫌な思いをすることって…私も嫌で、…なくしたいって思う。記憶はすぐに消せないけど、薄れさせることも…そうだなぁ、私は前、お腹痛かった時…。」
「うん。」
「ずっと律が過剰なくらい心配してくれてたことが、少し痛みを和らげてくれたっていうか。もし痛くて動けなくなっても、死んじゃうことはないかなってそういう安心感があったっていうか。…上手く言えないんだけど、痛みをそのまま渡せなくても、和らぐことはあるなって思ったから。だから、安心は私でも渡せるよ。…あんまり、頼りないかもしれないけど。」
頑張りたい気持ちはずっとある。空回っている気もするけれど、少なくとも嫌そうな顔をしていない律の表情で、自分のしていることは間違ってはいないと思って進むしかない。
「…手首の裾、引いて?」
「え?」
「こっち側。」
差し出された律の右手側の裾を、親指と人差し指でつまんで少しだけ引く。
「こ、こう?」
「うん。…ね。怜花はさ、ちょっと控えめに引くんだよね。いいかな、大丈夫かなって推しはかってるっていうかさ。だから…いいんだよ、それは嬉しいことなんだよって伝えたくて、抱きしめちゃう。」
「もっと強引だったってこと?」
「うん。…それで、俺の苦手な匂いがぐっと近寄ってくるの。…腕、咄嗟に叩いて振り払っても俺、怒られなくない?」
「怒られないよ!…というか…な、なんかさ…。」
「うん。どうしたの?…なんか、見たことない顔してる。」
聞けば聞くほど、心の中がモヤモヤする。イライラとは少し違う。不安からくるもやっとした、霧のような気持ちではなくもっと黒く滲んで、得体の知れない感情だった。
「…なんかすごく…その、律のせいじゃないってわかってるし、律も嫌だったって知ってるけど…嫌、だな、やっぱり、私も。…だって律は私のっ…。」
「私の?」
その先を口走る前に怜花は慌てて言葉を飲み込んだ。その先は勢いがあったとしても恥ずかしすぎる。
「…その先、まだ続く?それとも『私の』で終わる?」
「ちょ…ちょっと待って!今、立て直すから!」
「立て直さないでよ。私のだよって宣言されても嬉しいし、その先続いても、泣いたの吹っ飛ぶくらい嬉しいと思うし。」
まだ涙が残る律がそっと微笑むから、怜花は退路を断たれてしまった。律が笑ってくれるのなら、律が明日からの仕事を頑張れるのなら、そのためにやれることはやりたい。それが今できるのは自分だけ、かもしれないから。