夜を繋いで君と行く
「…作品をさ。」
「うん。」
「…ただ、自分が有名になる土台みたいにしか思ってないってわかるのも嫌だし、何かにかこつけて仲良くなりたいって他の人がいる前でも言ってくんの、嫌だ。…触ってほしくない。」
「…うん。嫌だねそれは。」
「…同じ音なのに、全然違う。怜花に呼ばれる名前と…全然違う。まとわりつくみたいな…変なものが一緒にある。…怜花が呼んでくれるみたいにふわっとしてない。優しくない。…あの人にとって俺も踏み台なんだって、馬鹿でもわかるだろ…。」

 怜花の服の背をぎゅっと掴む律の手に力がこもる。その強さや口調がいつもより荒々しいことに、律の我慢していた時間の長さとその重さを知る。

「やめてほしいことを、全然やめてくれない。…俺の顔を見たらわからない?それが嫌なことなんだって。」
「…見てないんだよ、そういう人は。自分に都合のいいフィルターを通して物事を見てるから、律の顔が目の前にあってもね、正確に読み取れないの。」
「顔と知名度、自分につり合うかつり合わないかしか考えてないのに…?」

 少し震えて聞こえた声に、怜花の方も苦しくなる。

「…律の方が擦り切れちゃうね。律は優しいし、人の表情がよく見えてしまう人だから。…しんどいね、わかってもらえないことも、嫌なことをされ続けるのも、それを強く拒絶できるわけじゃないことも。」
「…うん。…しんどい。疲れる。…気が散る。…ごめんね、怜花だって楽しくないよね。…好きでもない女に距離詰められて、嫌だとはっきり言えもしないでうだうだ言うような男が彼氏だなんてさ。」

 怜花はポンポンと律の背を叩きながら、律の問いを引き取った。

「…楽しくないよ。だって律がずっとしんどそうだもん。でもそれは、律のせいじゃないよ。」
「…怜花だって優しすぎるって。…優しくしたい人も、好きな人も俺が選ぶことで、押し付けるものでもなんでもないのに…なんでそんな簡単なことがわからないんだろう。…言葉が違いすぎて、同じ生き物と話している気がしない…しなかった。」
「…同じ生き物じゃないんだよ。だから言葉が違うの。…ねぇ、嫌だったこと、全部話した?してほしいことも、言った?」
「…言った。…したいことは、まだある。」
「何?」
「…キス、したい。いちゃいちゃしたい。…いつも思ってるけど、今日は特に、…いっぱいがいい。」
「…と、突然だね…。」
「…しても、いい?」
 
 顔を覗き込まれて、どくんと今度は怜花の心拍が上がる番になってしまった。怜花はきゅっと口元を結び、ぐっと背筋と首を伸ばした。律の頬にそっと唇をつける。きょとんとした表情を浮かべた律は、それを合図にそっと怜花の唇に自分の唇を寄せた。
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