夜を繋いで君と行く
ヒーローは遅れてやってくる
* * *

 翌朝、珍しく先に目を開けたのは律だった。横を見やると律の方に体ごと向けたまま、怜花が眠っていた。

「…背中向けられて寝たのが最初だったのにね。」

 寝顔はどんな顔をしているかわからないから見せたくない、の一点張りで背中を向けられて眠った過去が蘇る。そんな彼女が無防備な寝顔をそのまま向けて、自分の腕の中で眠っていてくれる。それは、律が初めて手にした温もりであり、幸せを形にしたもの、そのものだった。

「…可愛いね、ほんと。」

 怜花の方が眠りが深いことを考えると、昨日散々甘え倒して疲れさせてしまったのか、本当は忙しくて疲れていたのかとよくない方向にばかり思考が向く。そのあたりは本来、きっと怜花と自分は大差がないのだと思っている。何でも自分に戻ってきてしまうのだ。自分がこうしなければ、こうならなかったのではという『もし』ばかり考えてしまう。

「…ん…。」

 ゆっくりと目が開いて、視点がまだ定まらない怜花を見つめる。ちゃんと目が合うと、怜花はふわりと微笑んだ。

「…おはよ…。律が先なんて、熟睡しちゃってたね、私。」
「怜花、本当は疲れてた?」

 不安を口にしないように生きてきたはずなのに、怜花を前にすると不安もそのままの形を保ったまま出てきてしまう。怜花は首を横に軽く振ってから律の胸にそっと顔を埋めた。

「…ううん、全然。律がぽかぽかだから、ぐっすり眠れただけ。心配なことがあるときに一人は、…よくないね。」
「心配なこと?」
「律のこと!」
「…俺かぁ。」
「そうだよ。…仕事だから頑張らなきゃいけないのも、サボりたいわけじゃないんだろうなってこともわかってるから。…でも、頑張るしか言わないし。」
「…それが余計に心配させたんだ。」
「そう。」
「…難しいね、加減っていうか…吐き出し方が。負担させたいわけじゃない…から。」

 怜花は一度だけトン、と強く律の胸を拳で叩いた。

「痛っ!」
「…負担じゃないの、そういうのは。律だって私に構うの、負担じゃないでしょ?」
「むしろご褒美だね。」
「…なんで私も同じって思わないの。」
「…そっかぁ。」

 律は怜花を一度ぎゅっと抱きしめた。そして、腕を緩めると怜花の唇をかすめとった。

「…はぁー…めちゃくちゃ回復する感じする。もうちょっとチャージさせて。」

 怜花の唇に触れる度、温かさが体を駆け巡る。唇の柔らかさも、触れた吐息も全てが甘く感じられて、ここに戻るためなら今日一日を終えられる、そんな気さえしてくる。

「…お、起きよ。遅刻する。」
「会社まで送っていくよ。」
「え?」
「事務所まで車で行くし、車事務所に置いたまんまにして移動だから。」
「いやでも…。」
「次会えんの週明けのどこかわかんないし。…なのに俺、あのモンスター3連戦…とかだから。ギリギリまで怜花と一緒にいたい。」
「う…わ、わかったよ…とりあえず朝ご飯にしよ。」
「うん。」

 一つ、また一つと鎧が剥がれ落ちていく気がする。茶化して、本当の気持ちに少しの軽さを混ぜて重くしないように言っていた言葉たちが、低く落ち着いたトーンで零れてしまう。怜花が朝ご飯の準備のためにスッと出て行ってしまったベッドの中で、そんなことを思う。

「…はぁ、まずいなぁ。どんどん取り繕えなくなってる。」
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