夜を繋いで君と行く
* * *

『もしもし?怜花!』
「里依?どうしたの、そんなに慌てて…。」

 終業後、帰りの駅まで向かう途中に震えたスマートフォンを耳にあてると、里依の声が大きく響いて驚く。普段こんな声を出さないからなおさらだ。

『ネットニュースになってるっ…!二階堂さんが!』
「え…?」
『あ、違うよ。怜花とのことがとかじゃなくて、…盗撮?かな、なんか、あの、なんだっけ、最近流行ってる子かなんかと一緒に…。』
「…星宮ゆりあ。」
『多分それ!』

 最近の若い子に疎い里依の適当さに、今は少し気持ちが緩んでありがたかった。ネットニュースと言われると心が穏やかではいられないが、ひとまず自分との熱愛報道ではなくて良かったとそこだけは安堵する。ただ、これは律にとって『絶望的に良くない』ことだけはわかる。

『怜花、落ち着いてる…ね?』
「…う、うーん…落ち着いてる、かな?」
『その、女の子との熱愛報道だから…もっとその…ざわざわするかもしれないなって思って心配で電話したんだけど…。』
「その子のことがね、律は苦手なの。」
『えっ?』
「…致命的に、彼女は律の地雷を踏み抜いてる。…ということを知ってるから、…うん、律本人から聞いてるから、その…嫉妬的な意味でざわざわはしないかな。ただ…。」
『ただ?』
「…その、苦手な人と噂になる…噂っていうレベルではないけど、私たちで置き換えたら好きでもない人と付き合ってるんだって言われる苦痛のきっと100万倍くらい嫌だろうなって思って。今日から3日間くらい、舞台挨拶でいないから。心配ではあるね。…原因の子も近くにいるわけだし。」

 昨日は近くにいたから、一人で泣かせるなんてことにせずに済んだ。しかし今日は違う。律は京都にいて、明日は大阪、そして明後日は名古屋だ。家に帰ってくることは少なくとも2日間はできない。
 それに、その熱愛報道が出ることを律が事前に知っていたとは思えない。知っていたら昨日、笑ってくれることはなかったに違いない。大きな嫌なことがすでに1つ確定していてもなお笑えるほど、律はきっと強くない。

『…なんか。』
「うん?」
『…怜花、冷静だね。』
「そ、そうかな?」
『前から落ち着いてはいたけど、…なんか、ちょっと違うかも、前と。』
「自分じゃわかんないけどね。あんまり変わってないよ。でもそうだね、…なんか、前より物がはっきり見えるようになって、自分がどうしたいのか言ったり、行動に移したりすることに躊躇いがなくなったかもね、ちょっとだけだけど。」
『もっと慌てるかと思って、私が落ち着かなきゃと思ってたのに全然大丈夫だった~でもその方がいい~良かった!』
「この後色々調べて、里依に泣きつくかもしれないからね、全然。」
『それならそれでいいよ。…できることあったら、ちゃんと教えてね。』
「うん。ありがとう。まずは真っ先に連絡くれてありがとう。助かります。」

 怜花はスマートフォンを持っていない方の手をぐっと握った。
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