夜を繋いで君と行く
* * *

 ホテルのベッドにドカッと背中から飛び込んで、深くため息をついた。

『…これはこれは、僕と二階堂さんが忙しくて、社内も人手不足によって手薄になっているところでまんまとやられた、って感じがしますね。』

 そう言っていた九重の声がフラッシュバックする。九重は記事を読みながら、心底不快そうに顔を歪めていた。

『二階堂律と星宮ゆりあ 共演きっかけに熱愛か』
 げんなりする見出しだった。写真は北海道の居酒屋での食事会で、ゆりあがもう一軒行きましょうと腕を引いた時のものだった。画質が荒いため、表情まではっきりと写っていないことが致命的だった。表情まで写してくれていれば、見る人が見れば『嫌がっていた』とわかるものだっただろうに。
 特に最悪だったのは、この記事について、ゆりあの事務所の回答は『プライベートは本人に任せております』だったことだった。律の事務所はというと、確認のメールが来ていたのか来ていなかったのかも定かではない。何せ、スピードが速すぎた。月曜のことが金曜にはまるで本当のことかのように記事になっている。律自身は事務所に立ち寄ってはいたものの仮眠を取りにいっただけで、九重はといえば律の出張のサポートもしつつ、別件の対応もしていた。「回答は得られなかった」の一文が添えられていて、ゆりあ側は交際が本当であるかのように見せることに成功し、その否定のチャンスを律が失った形になる。

「…どこまでも最悪じゃん。」

 そこまでして、なぜ執着されるのかわからない。不特定多数にちやほやされて、自分の機嫌をとってくれと切に思う。
 怜花に抱きしめてもらって、名前を呼んでもらって戻ったはずの体温が、てのひらからするするとどこかへ行ってしまうような感覚に陥る。
 今日の分の舞台挨拶が終わっていて良かった。明日何を聞かれてもいいように考える時間は十分にある。そう思って、自分の目でもう一度ちゃんと記事を読もうと思ったその時だった。律のスマートフォンに、今一番会いたくて声の聴きたい人の名前が表示されたのは。
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