夜を繋いで君と行く
「どっちも俺が誘ったものだから、普通に出すよ。怜花ちゃんは付き合ってくれてるだけだし。」
「それでいくと、私が二階堂さんをデートに誘わないと支払いのチャンスが生まれないじゃないですか。」
「怜花ちゃんもデート案、出してくれる?」
「…私は、二階堂さんに彼氏をやってもらうだけでも負担を強いている立場なので…。」
「だから何かを一緒にしたいって提案するのはできない?」

 怜花は頷いた。これは相手が二階堂だからというわけではなく、相手が誰であっても同じように考えたと思う。

「…なるほど。わかった。でも、怜花ちゃんと会うことを負担だと思ってないし、もし何かしたいこととか一緒に食べたいものとかあったときにそれを提案されたら、俺は嬉しいってことは覚えておいて。」
「…む…難しい要求ですね、それ。」
「え~なんでさ。そのまんま受け取ってよ。俺、嘘ついてるように見える?」
「…見えないんで困ってます。」
「なんで!?」

 普通の人みたいで困るのだ。もっとあからさまに『男』で来てくれればいいのに決してそうではなく、今も楽しそうに笑っている。

「…ひとまず二階堂さんの要求については理解しました。叶えられるかはわかりませんが、善処はします。」
「うん。さて、じゃあ今日はお腹いっぱいになったし帰ろっか。」
「はい。」

 里依が三澄しか目で追えなくなってしまったあのライブに、二階堂も出ていた。怜花は特にお目当ての声優がいたわけでもなかったため満遍なく見ていたが、その時の二階堂がこんな風に笑っていなかったことだけははっきりと覚えている。クールなキャラクターに寄せたのだろうが、相手を挑発するような視線と笑みを浮かべていた。居酒屋で会った二階堂も明るい印象はあったが、こんな屈託のない笑みを浮かべていたわけではなかった。声優として見ていた笑顔と、一個人として出される笑顔の質感が違うように感じられて、色々なものの辻褄が合わない。怜花が出会った過去の男たちとも、怜花の周りにいる男たちとも被るところがなさすぎて、分析に困るのだ。そう、あの日からずっと困っている。
 店を出ると自然に手が取られる。楽しそうだからその気持ちに水を差したくなくて、怜花はその手を振り払うことはできなかった。
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