夜を繋いで君と行く
「あの、私ちゃんと調べてこなかったんですけど、もしかして知り合いの方が声をあててるんですか?」
「うん。鋭いね、さすが。知り合いっていうか、ん-…そうだな。恩人だな、どっちかって言うと。」
「恩人…?」
「うん。だからどうしても、劇場で観たかった。観たいっていうか、聴きたいかな。」
「…なるほど。普段吹き替えで観ないので、ちょっと新鮮で楽しみです。」
「うん。あ、俺のスマホ持ってもらってもいい?チケット、そのQR当ててー。」
「わかりました。」

 両手が塞がった二階堂の代わりに、怜花がQRコードをかざして入場する。どうやら前を歩いているカップルも同じシアターで観るようだ。

「…あの、もしかして恋愛モノですか?」
「え、うん。」
「うん!?」
「あ、面白い顔した、今。」

 ははっと軽く笑いながら、意外で面白いものを見つけた子供みたいな表情を浮かべる二階堂に、怜花は思わず少しだけ大きな声が出た。

「そうではなく!恋愛モノって、思いっきりデートみたいじゃないですか。」
「デートだってば。何も問題ないでしょ。周りもカップル。俺たちもまぁ、それなりにそう見えてると思うし。」
「…嵌めましたね、私のこと。」
「いや、怜花ちゃんのことだから時間から算出してこれかってなって断るかもーとも思ったけど、さすがにそんな不義理なことはしないよね。なんだかんだ真面目でノリが良くて、付き合いもいい。今日は俺の勉強に付き合ってくれてるってことで。」
「…勉強、なんですね。」
「うん。デート兼勉強です。」
「勉強ってなると、突然学生感が出ますね。」
「だね。まぁ、こんな楽しい学生生活ではなかったから、今の方が楽しいし、今日は怜花ちゃんって相方もいるしでテンション上がる。」
「…まぁ、学生生活が楽しくなかったっていう点については、私も同意します。」

 また重なってしまう。苦い部分が似ていたり重なっていたりしてしまうのだ、私たちは。その苦さを何度も味わっているから、言葉一つで簡単に想像できてしまう。ああ、あの気持ちね、と。
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