夜を繋いで君と行く
* * *

「…普通、泣く系の映画に連れてこないですよ。」
「あー…なんかめちゃくちゃ泣くじゃん。知らなかったんだけど泣く人だって。」
「女の方が感受性豊かなんですよ!」
「そっかそっか。どこかで休む?すぐどっか店入ってご飯はきつくない?」

 いちゃいちゃするタイプの映画だったら困ると身構えて行ったら、ストーリーは静かだった。BGMが心地よい映画で、前半は時代と身分に振り回されながらも二人が愛を掴んだ物語。少しの甘い期間の描写を経て、子供は授かることができなかった二人が、今度は夫の認知症が進むことで、二人の在り方を見つめ直すのが後半だった。怜花にはこの『忘れてしまう』『忘れられてしまう』という描写が辛い。この類のものは泣くとわかって観に行く分にはいいが、不意打ちではきつかった。結果、二階堂が隣にいるというのに泣いてしまうという失態を犯す羽目になっている。

「…帰ります。…帰りましょう。あの、今日は映画が終わったら家まで来てもらう算段だった…ので…。」
「え、そうなの?」
「はい。今日は渡したいものがあるので。二階堂さんはどんなに断っても絶対家まで送る人だってのはもうわかったので、今回はそれを利用することにしました。」

 言い終えた怜花はズッと鼻をすすった。きっとひどい顔をしていることだろう。できれば二階堂には強いままの自分しか見せたくなかったが、ストーリーが良かったのだから仕方がない。それに、声も良かった。声というか、間が絶妙だったのだ。

「…声と間に、涙腺がやられてしまいました。」
「ねー…。やっぱ上手いよねぇ。『…僕は、君を忘れてしまうのか?』がさー…。」
「…いい声で繰り返さないでください。フラッシュバックします。」
「ごめんごめん。」

 言葉上では謝っているものの、二階堂はどこか楽しそうだった。怜花は少し重くなった瞼のまま、二階堂を睨んだ。

「…面白がってますよね、私が泣いたこと。」
「面白がってるってのは、からかってるってことで言ってる?」
「はい。」
「じゃあ否定するね。面白がってもないし、からかってもない。ただ、…そうだな、『泣く』っていう、…うーん、人の柔らかい部分に触れる感情を見せてくれたのが新鮮っていうか。あと、怜花ちゃんの心を震わす笹塚さんの声に完敗って気持ちもあるかな。」

 二階堂はそう言うと、怜花の手を取った。
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