夜を繋いで君と行く
* * *

 5月4日の夜8時を少し過ぎた頃だった。怜花はレンタルしたスマートフォンをソファ前のテーブルの上に置いて、それをじっと見つめていた。カモミールティーを二人分淹れた律がマグカップをコトンと置く。そして怜花の隣に座ると軽く肩を引き寄せて、そのまま傾いできた頭の上にそっと唇を落とした。

「大丈夫だよ。最終的には俺がぼこぼこに言い返してブチって電話切るから。」
「……物騒なこと言うよね、この件に関しては。」
「それだけ怒ってるんだって。何言われたって俺は今までに怜花にしたことについて許さないし。でも、俺のそういう気持ちと怜花がどういう判断するかとか何言うかとかは全然別だよ。好きなこと、好きなように言っていいし、怜花が今まで聞いたことないくらいぼろくそに暴言吐いても引くとかはないから、むしろすっきりするんで。」
「……強いなぁ、ほんと。」

 できれば最初、母親に出てほしい。妹のあの声で最初から耳が壊れてしまうと、一気に心拍数が上がってしまうかもしれない。焦ると思考が飛んで、言いたいことが霧散してしまうかもしれない。

「律の強さ、ちょこっと貸してね。」

 怜花は律の体を軽く一度抱きしめて、大きく息を吸い込んだ。そして腕の力を緩め、距離をとってからスマートフォンに手を伸ばした。

「怜花。」
「何?」
「スピーカーにして、物理的な距離もちゃんと取って。んでこっちおいで。」
「え、えっと……?」
「そもそも俺が強いのって怜花が近くにいる時限定発動だし。はい、ここ座って。後ろからぎゅってするから。」
「そんな、近く?」
「うん。何があってもちゃんと全部気付きたいし。スマホはテーブルの上だと遠すぎるから横とか?」
「……過保護だよ、律。」

 怜花がそう言って苦笑すると、律の腕が大きく開かれた。

「はい、こっち来て。」

 怜花はスマートフォンを握って、律の腕が開かれたところにそっと腰を下ろした。背後から緩く回った腕にまた一つ、安心を貰う。
 久しぶりに開いた自分のスマートフォンの電話帳。そこから消したくても消せなかった電話番号を打ち込む。そして通話のアイコンをタップした。
 ドクンドクンと、嫌な心臓の音が鳴る。プルルルと響く機械音が、『はぁい』という声に切り替わり、怜花の喉は静かに動いた。
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