夜を繋いで君と行く
「怜花、代わったけど一体何なの?突然電話をしてきたかと思えば、結婚式には出ないとか、亜衣花を困らせることばかり言って。」

 こちらもこちらで変わってなどいなかった。亜衣花の言葉ばかり鵜吞みにし、叱るのは怜花のことだけ。『可愛がられていない』ことは昔からわかっていたけれど、子供の頃よりも今の方がはっきりとその違和感と理不尽を感じる。あの頃は言葉にできなかったもやが正しく言葉と理解をもって飲み込める。これが時が進むということなのだろうし、大人になるということでもあるのだろう。

「お母さん。」
「大学に行ってから一度も帰ってきてないんだから、結婚式くらいは顔を出しなさい。」
「……どうして一度も帰らなかったか、やっぱりわからないんだ、ね。」
「何?」

 帰れる家なら帰りたかった。実際、里依は夏や冬、実家に帰っている。大学生の冬は里依に誘われて、里依の家に泊まらせてもらったこともある。それは里依の家が怜花の家の事情を把握しているからそうしてくれていたことも知っている。宿泊費や食費を含めて渡したかったけれど一度も受け取ってもらえなかった。だからこそ行くたびにキャリーに入るだけのお土産を買って、里依の家にお世話になっていたのだ。その時ですら実家に顔を出したいとは思わなかった。むしろ、ばったりと家族に遭遇してしまうことが怖くて、ほとんどを里依の家の中で過ごしていたくらいだ。

「帰りたい場所じゃないんだよ、そこは。だから、もう私が帰ることはありません。」
「何言ってるのよあなた!」

 母の声が鋭くなっていることはわかる。ただ、不思議と幼いころに感じていた響きとは違って聞こえた。

「亜衣花には言ったけど、もう一度言うね。結婚式には出ません。実家にも帰りません。私がお母さんたちに会うことは、もうないです。娘は、……お母さんの理想の娘の亜衣花だけってことで、いいです。私はもう、いないということにして。その家も、もしお金とか相続するものとか色々あっても全部、要らない。お母さんもお父さんも、亜衣花のものでいい。……私は、要らない。私には全部、もう要らないです。」
「い、いきなり電話してきて一体何なの?」
「いきなり結婚するから結婚式に出ろって手紙をよこしてきたのは亜衣花だよ。それがなかったら、こんなこと言ってない。……昔みたいに、私は亜衣花に何でもかんでも譲ることがもうできないの。『お姉ちゃんだから譲りなさい』は、もう効かないんだよ。」

 怜花の言葉に、母は言葉をなくしたようだった。

「お母さん、いきなりすみません。怜花のこの先は僕が責任をもって引き受けます。」
「な、何なの?誰なの、あなたは。」
「今は怜花の彼氏です。でも、怜花が許してくれたら怜花の家族になります。怜花の最初の、ちゃんとした家族に。」
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