夜を繋いで君と行く
* * *

 午後は律には内緒で半休にしていた。怜花は食材を買って、帰宅した。5月は暑くもなく寒くもなく、丁度良い季節だった。こもった空気を入れ替えるべくカーテンを束ね、窓を開けた。少しだけ青葉の香りが怜花の鼻をくすぐる。目を閉じて息をゆっくりと吸い、心を落ち着けようと試みる。

(……大丈夫、どんな話でも、たとえ私が泣いても、大丈夫。)

 律は繰り返し、『怜花が泣くかもしれない』と言った。楽しい話ではないことはわかっていたが、泣くほどのことだと言われてしまうと、一体律はいつ、どんな目に遭っていたのかと考えてしまう。物理的に痛いことではないといいとも思うし、だからといって精神的に辛いことが長くないといいとも願ってしまう。
 怜花は頭を軽くブンと振った。そんなことを今考えたって仕方がない。今怜花ができることをしなくては。

 さっと昼食を作って食べた後、怜花は早速ケーキ作りに取り掛かった。律の帰宅は7時を越えるらしい。時間は十分にある。小さめのベイクドチーズケーキとレアチーズケーキを作る予定だ。大きいものではなく小さいものにして、複数の味を楽しめるようにしたい。というのも、律は一つのものを多く食べることよりも、品数が多いときの方が楽しそうにしているからだ。
 夕食はじゃがいものポタージュスープと、デミグラスソースのオムライス、スモークサーモンのマリネを作るつもりである。律は見た目の割に子供舌で、いわゆる子供が好きなものは一様に好きだ。中でもデミグラスソースはかなり好きなものに入るように感じる。外で外食をしても選ぶことがあるし、怜花が出しても特に嬉しそうだった。
 チキンライスには鶏ももや玉ねぎ、マッシュルームなど具を細かくしてたくさん入れてあげようとも思っている。怜花もだが、律も具沢山のものが好きということは付き合う前から何となく感じていたが、同じ時間を過ごす中で確信するようになった。豚汁やシチューなどもレシピにあるようなもの以上に色々入れたがる。店で食べれない、オリジナルが好きなのだろう。律自身もかなり料理をするようになり、持ち前の器用さで数回教えるだけで自分一人でできるようになってしまった。だからこそ今日は、少しだけ背伸びをして律には作れなさそうなものをやりたいと思う。さすがにまだ、料理の腕前は律に負けたくはなかった。

(……私が律に敵うのって、ご飯くらいだもんなぁ、今のところ。)
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