夜を繋いで君と行く
「…二階堂さんは、それでいいんですか?」
「うん。お泊まり会なんて全然やったことないしやりたい。なんか楽しそう。」

 なんか楽しそうなんて子供みたいな理由が、この年になると一番しみる気がする。顔にそのワクワクがそのまま浮かんでいて、怜花は仕方がないなという気持ちを笑みに込める。

「わかりました。私には二階堂さんがしたいっていうことを叶えるくらいしか、やっていただいているものに返せること、ないですし。」
「そんなことないよ。今日も帰り、怜花ちゃんのご飯のお裾分け貰えるでしょ?ちゃんとこの前借りたケース、洗って持ってきたよ。」
「…洗い物はできるんですね。」
「さすがに少しくらいは洗い物するからね。次は炊飯器を狙ってるんだけど、炊飯器の種類が多すぎて買えないでいるんだよね。何かオススメある?」
「お金があるなら、いいやつ買ったらいいんじゃないですか?私はそんなに高いの使ってないですけど、『極旨炊き』ってので炊飯したら、白米が美味しすぎて白米だけで食べれちゃって、それは驚きましたし。」
「そんなのあるの!?えー美味しいの食べたい!」

 素直に色々な感情を見せてくれて、そこにいわゆる性欲が少しも出てこないからこそ、怜花は微笑んで二階堂を見つめられる。二階堂にあるのは今のところ、食欲と好奇心。それ以外はうまく隠しているからなのか、そもそもあまりないのか見えてこない。しかし、常に男からの性欲をはらんだ視線にさらされてきた怜花にとっては、あるとしても隠してくれるのであればありがたかった。

「二階堂さんの家でいいんですよね?」
「怜花ちゃんが安心できる方は怜花ちゃんの家かなって思うんだけど、怜花ちゃんは俺を家に絶対あげたくないじゃん?」
「はい。セキュリティもさすがにうちよりは上の場所にお住まいかと思うので、そっちのほうが安全です。」
「俺は一緒にいられればどっちでもいいから、俺んちでいいんだけどさ、何もないんだよね、うち。」
「え?」
「炊飯器もないし、鍋は小さいのが1つ。カップ麺のお湯沸かす用に買ったけど、ケトル買ったらいらなくなって使ってない。」
「…まさか、フライパンもない…?」

 二階堂は静かに頷いた。信じられないものを見つめる目をついしてしまったが、自炊をしない人ならばこのくらいなのかもしれない。電子レンジとケトルがあれば、冷凍食品が大体食べれるし、コーヒーだって飲める。
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