夜を繋いで君と行く
「俺の本物って面白い表現だよね。ずっと本物なんだけど。」
「…それはそうなんですけど、まさかその本物の連絡先を知る日が来るとは思わないじゃないですか。」
「なんか、怜花ちゃんの中には線引きがあるんだね。声優の側面とそうじゃない側面の。」
そう問いかけると、少し彼女は黙った。うーんと唸って、そうだなぁと語りだす。
「ステージ上にいる二階堂さんは、二階堂さんじゃなくてキャラクターをおろしてきた姿って言えばいいのかな。憑依させる?まぁそんな感じで、今ここにいる二階堂さんは…当たり前ですけどキャラクターなんかじゃなくて、生身の人間です。私に気を遣いすぎな、普通の人って感じがします。…普通の人は、失礼ですね。普通ではないかな、声優という職業自体は特殊だとは思いますし。」
彼女の声は、基本的に静かであることが多い。たまに照れたのか少しだけ大きな声を出すことはあっても、じっくりと考えてから言葉を発することが多いようで、その声は静かに染み入る。そして脳裏に刻まれて、深く残る。記憶力がいいという自分の能力が、ここ最近は遺憾なく発揮されているように思う。記憶に刻みたい彼女の言葉がまた一つ、増えていく。
「それ、観る?」
「え?」
「まぁ映画とかでもいいけどさ、ジュース開けてだらーっと何か見るってのも、家での時間って感じしない?」
「いわゆるお家時間っていうのを充実させたかったんでしたっけ?」
「いや?ただ、長く過ごしたかっただけ。」
帰り道に手を繋いで帰る。相手のことが知りたくて、少しの質問を投げかけながら、答えと表情を探って。そんな時間が思っていた以上に楽しくて、『仮彼氏』なんて約束を忘れてしまいそうになるときがある。この関係は仮初で、だからこそずっと探っている。どこまで近付いても怖がられないのか。どこまでを今、許されているのか。その距離を踏み間違えることを、今の自分は恐れている。
「長く過ごしてみて、不快にさせていませんか?」
「うん。楽しいだけ。怜花ちゃんは?」
「私?」
「うん。」
彼女は目をきちんと合わせて話をしてくれる人ではあるが、時折目が泳ぐときがある。そしてそういう時は大体、照れる前か本気で悩んでしまったときのどちらかだと思っている。
「…二階堂さんに気を遣っていただいてるからだとわかっていますが、思いのほか、私も楽しんでるみたいです。料理してて楽しいなって思うの、初めてだったかもしれません。」
役が『好き』、『楽しい』と『初めて』思った。彼女がくれた言葉一つ一つの意味は単純でありふれたものなのに、特別な意味や響きをもって聞こえてしまい、心を落ち着けるために二階堂は小さく息を吐いた。
「…それはそうなんですけど、まさかその本物の連絡先を知る日が来るとは思わないじゃないですか。」
「なんか、怜花ちゃんの中には線引きがあるんだね。声優の側面とそうじゃない側面の。」
そう問いかけると、少し彼女は黙った。うーんと唸って、そうだなぁと語りだす。
「ステージ上にいる二階堂さんは、二階堂さんじゃなくてキャラクターをおろしてきた姿って言えばいいのかな。憑依させる?まぁそんな感じで、今ここにいる二階堂さんは…当たり前ですけどキャラクターなんかじゃなくて、生身の人間です。私に気を遣いすぎな、普通の人って感じがします。…普通の人は、失礼ですね。普通ではないかな、声優という職業自体は特殊だとは思いますし。」
彼女の声は、基本的に静かであることが多い。たまに照れたのか少しだけ大きな声を出すことはあっても、じっくりと考えてから言葉を発することが多いようで、その声は静かに染み入る。そして脳裏に刻まれて、深く残る。記憶力がいいという自分の能力が、ここ最近は遺憾なく発揮されているように思う。記憶に刻みたい彼女の言葉がまた一つ、増えていく。
「それ、観る?」
「え?」
「まぁ映画とかでもいいけどさ、ジュース開けてだらーっと何か見るってのも、家での時間って感じしない?」
「いわゆるお家時間っていうのを充実させたかったんでしたっけ?」
「いや?ただ、長く過ごしたかっただけ。」
帰り道に手を繋いで帰る。相手のことが知りたくて、少しの質問を投げかけながら、答えと表情を探って。そんな時間が思っていた以上に楽しくて、『仮彼氏』なんて約束を忘れてしまいそうになるときがある。この関係は仮初で、だからこそずっと探っている。どこまで近付いても怖がられないのか。どこまでを今、許されているのか。その距離を踏み間違えることを、今の自分は恐れている。
「長く過ごしてみて、不快にさせていませんか?」
「うん。楽しいだけ。怜花ちゃんは?」
「私?」
「うん。」
彼女は目をきちんと合わせて話をしてくれる人ではあるが、時折目が泳ぐときがある。そしてそういう時は大体、照れる前か本気で悩んでしまったときのどちらかだと思っている。
「…二階堂さんに気を遣っていただいてるからだとわかっていますが、思いのほか、私も楽しんでるみたいです。料理してて楽しいなって思うの、初めてだったかもしれません。」
役が『好き』、『楽しい』と『初めて』思った。彼女がくれた言葉一つ一つの意味は単純でありふれたものなのに、特別な意味や響きをもって聞こえてしまい、心を落ち着けるために二階堂は小さく息を吐いた。