夜を繋いで君と行く
「…本当に二階堂さんは、変な気を起こす気がないって言いたいんですね。」
「ないよ。なんなら今も、寝るまで一緒でもいいんだ、くらいに思ってる。絶対に嫌って言うかと思ってたから。」
「…絶対嫌…か…なんか、二階堂さんに対して絶対嫌みたいな気持ちは、今のところないかもしれません。思ったより踏み込んでこないし、踏み込ませないですよね。…でも、それが私にはありがたい。」

 怜花がそう言うと、握られた手にまた少しだけ力がこもった。

「…踏み込まれたくない気持ちがわかるからそうしてるだけ。踏み込みたくないわけじゃないよ、本当は。」
「え?」
「ていうかさ、とりあえず怜花ちゃん入って。せっかくあったまった手、元に戻っちゃう。」
「…こういうとき、絶対譲らないタイプですよね。」
「俺のことがわかってきたみたいだね、うん、その通り。だから折れて?」
「…わかりました。」

 怜花が先にベッドにもぐりこみ、窓の側に極力寄る。その後に入ってきた二階堂は、怜花の方に寄りすぎることのない位置で動きを止めた。

「あのさー手、繋いで寝るはなし?」
「なしです。」
「即答じゃん。ちなみになんで?」
「だってそうしたら、私は寝顔を微妙に見られることになりますよね?」
「なるね。背中向けられたら手、繋げないし。」
「だからなしです。寝顔を見られても大丈夫って思えないですし。」
「寝顔ってそんなに嫌なもの?」
「嫌っていうか…自分じゃコントロールできないじゃないですか、寝てるから。」
「まぁね。でもそっか、寝顔はなしで手を繋いで歩くのは室内でも屋外でもあり。…怜花ちゃんのありなしデータ、結構むずくない?俺、全然わかんない。」

 怜花の背中から、困ったような声が飛んでくる。表情を確認したいような気持ちもあるけれど、振り向いてしまったら逃してくれなさそうで、怜花は振り返ることができなかった。その代わりに、本音を一つ零す。

「…わからないですよね。私もわからないんです。ノリで答えちゃってるのかも。」
「ノリかぁ。ってことはさ、気分がいい日はこっち向いて寝てくれることがあるかもってこと?」
「…わからないです、それは。」
「でも、絶対ないってわけじゃないね。わからない、は嫌でもなしでもないから。」
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