夜を繋いで君と行く
「わかり…ました。信じます。」
「うん、信じて。」

 二階堂の手が、怜花の手に触れてゆっくりとその指を絡めとった。怜花の手は冷たくて、二階堂の手の温もりが心地よかった。二階堂は怜花の指の冷たさに驚いて、指先を優しく擦った。

「…やってから気付いたけど、手に触れるはまずかった?」
「いいえ、大丈夫です。そもそも、帰り道には何も言わずに手、取ってるじゃないですか。」
「外ではね。今日は中だから。っていうか、体、冷えた?」
「…手だけ、冷たいですよね。寒いとかじゃないんですけど。…寝る時間が近付いてきて、緊張してたから…かもしれません。」
「そっか。ごめん、気付かなくて。布団入ってあったまろ。こっち。」

 そのまま手を引かれて、寝室に向かう。こんな風に穏やかに他人の寝室に向かう自分が不思議だった。手から伝わる熱には欲がなくて、ただ優しさだけがそこにあるみたいだった。

「…不思議…。」
「何が不思議?」
「手、あったかくなってきたので。緊張、なくなったかもしれなくて。」
「よかった。ちょっとは役に立った?」
「…はい。」

 寝室のドアを開けると、思っていた以上の大きさのベッドが鎮座していた。

「え、あの、なんですかこれ、キングサイズ?」
「うん。家帰っても寝るか座るかしかしないから、ソファとベッドだけには金使ってもいいかなって思って。」
「こんなに大きいの、お家に置けるんですね。」

 怜花の手を握ったままの二階堂の手に力が入ったのを感じる。力加減の変化に気付いて、怜花は顔を上げた。

「広いから、ちゃんと距離保てるし安心できる?」

 表情を窺うような優しい目が、怜花をまっすぐにとらえる。優しい声に胸の奥が痛む。優しくされると揺れる。与えられる優しさが本物なのかと疑って、そんな自分が嫌で嫌で仕方がなくなる。この人は違うのではないかと期待したくなって、でも裏切られたら怖くて、本質的なことは何も聞けない。
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