夜を繋いで君と行く
今夜、君を捕まえる
「…本物、やっといた。」
もう会うことはない人にしたはずだった。それなのに、また顔が見れて嬉しいと思う気持ちが湧き上がってしまう。蓋をしたいのに、蓋は里依と三澄に遠くへ放り投げられてしまった。
ただただ視界が涙で滲んで、それ以上目を見てはいられなくて、怜花は視線を下げた。謝らなくてはならないことはたくさんある。でも、声は少しも出なかった。
「呼ばれた。…帰ろ。」
二階堂の手が、怜花の手をいつもと同じように取った。その温度も変わらなくて、そんなこと一つで泣きそうだ。
「三澄、今回のは借りだわ。…でも助かった、サンキュ。椎名さんもありがとう。」
「お役に立てて嬉しいです。」
「今度飯奢ってーそれでチャラ。」
「うん。…お邪魔しました。」
「…いっぱい、迷惑かけてごめんなさい。」
怜花は三澄と里依に頭を下げる。顔を上げると、笑顔の里依が目に入った。
「迷惑じゃないよ。怜花にたくさん助けてもらってるから、こうやって今度は私が背中押せて嬉しい。…二階堂さん、怜花は逃げ足が速いし、私よりもずっと頭がいいのでちゃんと気をつけてくださいね!」
「うん。今度、こっそり弱点と攻略法教えてね?」
里依はコクコクと頷いた。三澄はひらひらと手を振っている。二階堂に手を引かれるまま、怜花は里依の家を後にした。
もう外は真っ暗だった。冬は夜が来るのが早い。息が白く染まる。里依の家でそこまで遠くはないからと油断してマフラーも手袋もしてこなかった。夜の空気は、怜花の体温を奪っていく。冷えて温度をなくした怜花の手に気付いたのか、二階堂は一度手を離し、指を絡めて熱を分けてくれる。里依と三澄がいないだけで、気まずくて辛い。二階堂は何も言わない。どこに向かって歩いているのかもわからないけれど、手は緩む気配がなくて怜花はそれに従う他なかった。
「…生きててよかった。」
「え…?」
「既読ついたから、月曜は生きてたんだなってわかったけど、そこからは生きてんのか死んでんのかわかんなくて。…手、冷たいけど、でも生きてる。なんか痩せたね。ちっちゃくなった気がする。…あと、眠れてないでしょ?」
「…どう…して…?」
「だと思った。…何もできなくてごめんね。放っておきたかったわけじゃないけど、手を伸ばせなかったのは事実だから。」
近くの駐車場に、二階堂の車が停めてあった。
「ごめん。今日は怜花ちゃんの意思を尊重できない。ただ俺のわがままで、家に来て話を聞いてほしいって思ってる。場所は本当はどこでもいいけど、冷やしたくないから外じゃないところがよくて、時間の制限もないところがいいから俺は自分の家を提案するけど、怜花ちゃんがあの家にもう行きたくないってことなら、怜花ちゃんの家でもいい。怜花ちゃんが俺と話をもうしたくないとしても、俺には聞いてほしいことがあって、できれば怜花ちゃんの話も聞きたくて。…嫌なことをさせるかもしれない。でも、今日を逃したら、もう二度と、目は合わないんだと…思う、から。」
視界がぼやける。二階堂はきっと、いつも通りにしっかりと目を合わせてくれているのだろうと思う。しかしぼやけた視界では焦点が合わない。瞬きをすると、ほろほろと静かに涙がこぼれ落ちた。
もう会うことはない人にしたはずだった。それなのに、また顔が見れて嬉しいと思う気持ちが湧き上がってしまう。蓋をしたいのに、蓋は里依と三澄に遠くへ放り投げられてしまった。
ただただ視界が涙で滲んで、それ以上目を見てはいられなくて、怜花は視線を下げた。謝らなくてはならないことはたくさんある。でも、声は少しも出なかった。
「呼ばれた。…帰ろ。」
二階堂の手が、怜花の手をいつもと同じように取った。その温度も変わらなくて、そんなこと一つで泣きそうだ。
「三澄、今回のは借りだわ。…でも助かった、サンキュ。椎名さんもありがとう。」
「お役に立てて嬉しいです。」
「今度飯奢ってーそれでチャラ。」
「うん。…お邪魔しました。」
「…いっぱい、迷惑かけてごめんなさい。」
怜花は三澄と里依に頭を下げる。顔を上げると、笑顔の里依が目に入った。
「迷惑じゃないよ。怜花にたくさん助けてもらってるから、こうやって今度は私が背中押せて嬉しい。…二階堂さん、怜花は逃げ足が速いし、私よりもずっと頭がいいのでちゃんと気をつけてくださいね!」
「うん。今度、こっそり弱点と攻略法教えてね?」
里依はコクコクと頷いた。三澄はひらひらと手を振っている。二階堂に手を引かれるまま、怜花は里依の家を後にした。
もう外は真っ暗だった。冬は夜が来るのが早い。息が白く染まる。里依の家でそこまで遠くはないからと油断してマフラーも手袋もしてこなかった。夜の空気は、怜花の体温を奪っていく。冷えて温度をなくした怜花の手に気付いたのか、二階堂は一度手を離し、指を絡めて熱を分けてくれる。里依と三澄がいないだけで、気まずくて辛い。二階堂は何も言わない。どこに向かって歩いているのかもわからないけれど、手は緩む気配がなくて怜花はそれに従う他なかった。
「…生きててよかった。」
「え…?」
「既読ついたから、月曜は生きてたんだなってわかったけど、そこからは生きてんのか死んでんのかわかんなくて。…手、冷たいけど、でも生きてる。なんか痩せたね。ちっちゃくなった気がする。…あと、眠れてないでしょ?」
「…どう…して…?」
「だと思った。…何もできなくてごめんね。放っておきたかったわけじゃないけど、手を伸ばせなかったのは事実だから。」
近くの駐車場に、二階堂の車が停めてあった。
「ごめん。今日は怜花ちゃんの意思を尊重できない。ただ俺のわがままで、家に来て話を聞いてほしいって思ってる。場所は本当はどこでもいいけど、冷やしたくないから外じゃないところがよくて、時間の制限もないところがいいから俺は自分の家を提案するけど、怜花ちゃんがあの家にもう行きたくないってことなら、怜花ちゃんの家でもいい。怜花ちゃんが俺と話をもうしたくないとしても、俺には聞いてほしいことがあって、できれば怜花ちゃんの話も聞きたくて。…嫌なことをさせるかもしれない。でも、今日を逃したら、もう二度と、目は合わないんだと…思う、から。」
視界がぼやける。二階堂はきっと、いつも通りにしっかりと目を合わせてくれているのだろうと思う。しかしぼやけた視界では焦点が合わない。瞬きをすると、ほろほろと静かに涙がこぼれ落ちた。