夜を繋いで君と行く
「…そんなに、泣くほど…嫌なら…あー…でもごめん。泣くほど嫌なこと、したくないけど…引き下がりたくない。泣くほど嫌でも、来てほしい。」
繋がれた手は、本気で振り払ったら振り払える程度の力加減で握られていることはわかっていた。怜花に逃げる余白は残されている。今、あのバーベキューの日のような全力疾走をしたら100メートルももたないだろうけれど。
怜花は首を横に振った。涙が後から後から止めどなく落ちてきて、もう自分のコントロールできる範囲は超えてしまっている。
「…ごめんなさい…。二階堂さんがいるって…わかるのに…ちゃんと見えなくてごめんなさい。…迎えにも、こなくてよかったのに、こんな…また私のことで、手を煩わせる…そうしたいわけじゃないんです。…ごめんなさい。」
「っあー…外だから、…我慢。とりあえず、乗って、…くれる?」
怜花は頷いた。二階堂の方には言いたいことがある。それは当然だ。突然何の連絡もなしに逃げ出して、迎えにも来させて、面倒な女を引き受けさせた。罵倒されても、叱られてもそれは甘んじて受けるべきだ。
前に乗ったときと違いすぎる空気が痛い。緊張と期待を抱いて乗っていたあの日、涙で何も見えないままにこの車にまた乗る日が来るなんて、想像すらしてなかった。
怜花が助手席に座ってシートベルトを締める。二階堂は自分が身に着けていたマフラーを外し、怜花の首元にふわっとかけた。
「さっきまで乗ってた割には車の中あったまってないし、あったまっていらなくなったら取っていいから、冷やさないようにつけてて。」
「…はい、ありがとう…ございます。」
本当はもっとはっきり声が出したかった。ただ、二階堂の香りがこんなに近くまで迫ってくると、声が出なかった。車内に満ちる空気からもマフラーからも、二階堂の香りがした。
(ああ、…だめだ、本当に。悲しいわけじゃないのに、目が壊れちゃった…もう本当に、無理。)
二階堂の優しさが自分の方に向くのは間違っている。そう思うのに、優しさを渡されると嬉しいと思う気持ちを否定できない。優しくされると嬉しくて、手を引かれても嬉しくて、迎えに来てくれたのも本音を言えば嬉しかった。嬉しくなってはいけないのに。
ハンカチを持ってこなかった。泣く予定でもなく、ただ里依に、夕飯作りすぎたから食べに来ないと誘われて、里依とだったら何か食べれるかもと思って軽い気持ちで外に出ただけだった。だから何も持っていない。自分以外は何も。
繋がれた手は、本気で振り払ったら振り払える程度の力加減で握られていることはわかっていた。怜花に逃げる余白は残されている。今、あのバーベキューの日のような全力疾走をしたら100メートルももたないだろうけれど。
怜花は首を横に振った。涙が後から後から止めどなく落ちてきて、もう自分のコントロールできる範囲は超えてしまっている。
「…ごめんなさい…。二階堂さんがいるって…わかるのに…ちゃんと見えなくてごめんなさい。…迎えにも、こなくてよかったのに、こんな…また私のことで、手を煩わせる…そうしたいわけじゃないんです。…ごめんなさい。」
「っあー…外だから、…我慢。とりあえず、乗って、…くれる?」
怜花は頷いた。二階堂の方には言いたいことがある。それは当然だ。突然何の連絡もなしに逃げ出して、迎えにも来させて、面倒な女を引き受けさせた。罵倒されても、叱られてもそれは甘んじて受けるべきだ。
前に乗ったときと違いすぎる空気が痛い。緊張と期待を抱いて乗っていたあの日、涙で何も見えないままにこの車にまた乗る日が来るなんて、想像すらしてなかった。
怜花が助手席に座ってシートベルトを締める。二階堂は自分が身に着けていたマフラーを外し、怜花の首元にふわっとかけた。
「さっきまで乗ってた割には車の中あったまってないし、あったまっていらなくなったら取っていいから、冷やさないようにつけてて。」
「…はい、ありがとう…ございます。」
本当はもっとはっきり声が出したかった。ただ、二階堂の香りがこんなに近くまで迫ってくると、声が出なかった。車内に満ちる空気からもマフラーからも、二階堂の香りがした。
(ああ、…だめだ、本当に。悲しいわけじゃないのに、目が壊れちゃった…もう本当に、無理。)
二階堂の優しさが自分の方に向くのは間違っている。そう思うのに、優しさを渡されると嬉しいと思う気持ちを否定できない。優しくされると嬉しくて、手を引かれても嬉しくて、迎えに来てくれたのも本音を言えば嬉しかった。嬉しくなってはいけないのに。
ハンカチを持ってこなかった。泣く予定でもなく、ただ里依に、夕飯作りすぎたから食べに来ないと誘われて、里依とだったら何か食べれるかもと思って軽い気持ちで外に出ただけだった。だから何も持っていない。自分以外は何も。