夜を繋いで君と行く
「ん?なんか楽しいことあった?」
「ううん。…意外なの、ずっと。」
「意外?」
「…だって、いつもそんな色んなことに心乱されてわーってなるみたいなことないですよ、って感じなのに。」
「怜花から抱きついてくるのも可愛いし、ピタってしたのも可愛すぎる。今ぴったりくっついてんの、可愛すぎない?ぴったりだよ?」
「ふふ、ほんと…可愛いですね、言ってることが。」

 怜花は手を伸ばし、律の髪を撫でた。初めて触れた律の髪はサラッとしていて不思議な感触だった。思えば、男の人の頭に手を伸ばしたのはこれが初めてだ。
 不意に頭を撫でられた律はぴたっと動きを止めた。

「…怜花が言ってた安心ってやつ、今わかったかも。」
「え?」
「頭撫でられんの、いいね。…もっとやって?」

 今までで一番甘えたような声で、耳元で囁かれる。少し掠れた声が切実で、頭を撫でる怜花の手に少しだけ緊張が走る。

「…すごいね、魔法の手。」
「それはお互い様…だと思う…な…。」
「魔法の手になってる?俺も?」
「…うん。安心して、ちょっと眠たくなってくる、手。」
「あ、眠い?疲れた?」

 名残惜しそうに腕を離した律が怜花の顔を覗き込む。気が付くとあと少しで10時だった。

「結構時間経ってた。…休もっか。ベッドでもべたべたできるし。」
「…えっと、私は…泊まりますか?」

 敬語に戻ったり、普通に話せたりとまだ話し方が安定しない。慣れでいえば敬語の方が今の怜花にとっては普通だが、距離が近付くとぽつぽつと敬語が取れた形で話してしまっている。自分は一体いつか、ちゃんと慣れるのだろうか。そんなことも思うが、そんなぼんやりとした思考は即答が返ってくることで現実に引き戻される。

「うん。帰んないで。」
「…シャワー借りてもいいですか?」
「シャワーじゃだめだし、今日は。お湯ためるし、湯船にも浸からせるから。」
「…はい、わかりました。」

 きっとここは譲らない。顔に『心配』の文字はずっと浮かんでいるから。

「着替え…取りに帰る?」
「…スウェットでも何でもいいので、部屋で着れる服、貸してくれますか?」
「えっ、俺の服着てくれるの?」
「1回取りに帰ってまたここに戻るくらいの時間、車に乗る元気、…もう残されてないので。」
「そうだね。今度、何着かまとめて持ってきてよ。部屋着とかも。置いておいていいから。とりあえず俺の服見て、着れそうなやつ探そう?」

 怜花が立ち上がると、怜花の手が律の手に絡め取られた。怜花を振り返って律がにこっと笑う。

「…手を繋ぐのも、全然違うね。好きな子が握り返してくれるっていうのが、…可愛い。」
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