大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで

第1話 大好きな旦那様

 ここは乙女ゲーム本編を終えて真実の終わり(トゥルーエンド)を迎えた世界。
 ヒロインのアイリス、悪役令嬢のベアトリーチェ、モブ令嬢に転生した私も幸せな未来を勝ち取って、思い人と結婚。毎日が華やいで充実していた。
 あの日までは──。

 魔法学院を卒業して三年イコール嫁いだ年数。
 王都から離れた辺境地で私と旦那様は悠々自適な生活を送る──はずだった。

(旦那様の仕事柄、王都や隣国に行ったりと忙しいのはしょうがないわよね)

 しかし今日は待ちに待った旦那様が屋敷に帰ってくる日だ。
 最近は忙しくて領地に戻っていなかったので、遅い時間だけど一言挨拶をしたかった。慌てて静止しようとした老齢の執事を振り払って彼の部屋に急いで向かう。

(旦那様が帰ってきたのなら妻である私が『お帰りなさい』と言って、旅の疲れを癒やして差し上げたい!)

 大好きな旦那様に会えると思い私は浮かれていた。浮かれすぎていたのだ。
 旦那様の部屋に辿り着き、ノックをしようとした瞬間、部屋の中から声がしたのだ。

『愛する奥様に気付かれるかもしれないわよ』
『アレは気付かないさ。付き合ってから、ずっと気付いていないのだから』
(え──?)

 聞き間違いだと思い、ノックなしに部屋のドアを開けると──ソファには今まさに旦那様が真っ赤なドレスを着た女性に覆い被さっていた。
 覆い被さろうとしているイケメンは蒼黒の長い髪、黒檀の瞳に整った顔立ち、間違いなく旦那様だ。

「────っ!」

 衝撃が全身を駆け巡る。
 この数年積み上げてきた旦那様との絆が木っ端微塵になり、頭が真っ白になった。
 なんて空気の読めない妻だろう。

 殻を破るような──亀裂音が耳に残る。
 ずっと帰りが遅かったのも会いたいと思っていたのも自分だけだったと気づき、足元がガラガラと音を立てて崩れ去った。
 浮遊感を覚えた後、私の意識はブラックアウトした。

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