大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで
抵抗しようと彼の舌を噛みつこうとした瞬間、彼は私の下唇を噛んだ。鉄の味が口に中に広がり吐き気がしたが、身じろぎすることしかできない。
濃厚なキスが気持ち悪くて嫌なのに、唇を離したルディー様は満足げに微笑んでいた。
恍惚とした表情は、どこか夢うつつといった感じだ。
「あははははっ、やっぱり起きていた方がいい反応をしてくれるね」
(ベルナルド様以外の人とキスを……ううっ)
ただただ唇を重ねたことが悔しくて、悲しくて、胸が引き裂かれるように辛い。今すぐにでも唇を拭って感触を忘れたいのに、それすらできなかった。
「ねえ、シャーロット。……今からでも私を選んでくれないかな?」
「お断りします」
被せるように私は答え、それに対して彼は大きく溜息を吐いた。
「……もし私を選んだのなら生かしてあげてもよかったんだけど、しょうがないですね。このままベルナルドへの復讐に、君を最大限使わせてもらうとしよう」
「ベルナルド様に、何をするつもりなの?」
「私は何もしないよ。君がベルナルドを殺すか、彼が君を殺すか。それがあの男を苦しめるのに一番いい方法だからね」
「私が、ベルナルド様を殺す?」
ふとルディー様の口元に黒紫色の蔦のような紋様が生じていた。口だけではない。両手にも広がって──唐突に彼の指先は炭化して崩れていった。
「え、なっ……肉体が炭化するなんて」
「ベルナルドだけじゃない。私を殺すのは君だよ、愛しい人。君の魔力吸収によって世界樹の根は既に屋敷の外に広がり、ありとあらゆる生命体の魔力を吸い尽くす。その根は地中を潜って王都まで伸びているだろう」
「そ、そんな。私は魔力吸収なんて使ってないのに」
「君の意志ではね」
すでに取り返しの付かないところまで来ているとはいえ、最小限の犠牲で済むかと思っていた考えが甘かった。ルディーの言葉通り、今も王都に世界樹の根が広がっているのなら、その被害は想像も付かない。