年下ワンコと完璧上司に溺愛されて困っています。
 洗面所でどうにか落ち着きを取り戻し、リビングへ戻る。
 そこでは(あおい)が、本棚の前に立っていた。

 そこは私のジョジョコレクション棚。
 コミックス全巻はもちろん、アニメのDVDやゲームソフト、さらにフィギュアやグッズまで整然と並んでいる。

「すごい!全巻そろってるんだ!」
 目を輝かせている碧は、さっきまで私をドキドキさせていた相手とは思えないほど無邪気だ。
 視線はコミックスから順に、DVD、ゲーム、フィギュアへと移っていく。

「これっ!!」
 指さしたのは、一番くじのラストワン賞——ココ・ジャンボのフィギュア型ボックス。
「去年の一番くじのやつですよね。僕も欲しかったやつだ」
 
 そんなふうに感動している碧を見て、私はちょっと誇らしくなる。
「碧くんもジョジョ好きなんだね?」
 
 碧は小首をかしげて笑った。
「やっぱ覚えてないんだ。おねーさんが初めてバーに来たとき、ジョジョの話で盛り上がったんですよ」
 
「えっ、そうだっけ!?」
「ほら、僕の髪色。ジョルノに憧れてこの色にしたんですよ」
「えええー!! まじか! ちょっと前髪にカーラーつけてみてほしいわ」
「……この間とまったく同じ反応するんですね」
 クスクス笑う碧に、胸の奥がほんわか温かくなる。

「おねーさんち、落ち着くなぁ。……実家に帰ってきたみたいに居心地いいんだよね」
 ソファに腰を下ろしながら言う碧の顔は、魔性のオトコどころか完全に子犬。
 (……なんか、悪い意味じゃなく。やっぱりこの子は子犬なんだ)
 張り詰めていた心がふっと緩み、肩の力が抜けていく。

 そのとき、碧がふわぁと大きなあくびをした。

「あ、そうか。碧くん、いつもはこの時間寝てるんだよね」

「どうする? シャワー浴びてから寝る?」
 何気なく言ったつもりが——。

「それって……誘ってる?」

 一瞬、碧の瞳がふっと色を変える。
 ぞわりと背筋を撫でるような気配に、思わず固まった。

「ち、ちがうゥゥーーッ!! そういう意味じゃあないィィーーーッ!!」
 慌てて両手をぶんぶん振ると、碧はクスクス笑って肩を揺らす。

「冗談ですよ〜。……眠いんで今日はもう、ここで寝ます」
 そう言ってソファにごろんと転がり、まるで子犬のようにあっさり寝息を立てはじめた。

(……あれれ? なんだ。やっぱりワンコじゃん)

 拍子抜けしたように笑いながらも、その無防備な寝顔に胸がきゅっとなる。

 ソファで眠る碧の寝顔を、私はついじっと見つめてしまった。
 (……やっぱり可愛い。寝てると完全にワンコだな……)

 気づけば、人差し指をそっと伸ばして——ほっぺをツン、とつつく。
「……柔らかっ! この張り! さすが二十代……!」
 思わず興奮して、もう片方の頬もムニムニ。
 (うわぁ、楽しい……!)

 そのとき。
 碧が寝返りを打ち、ツンと伸ばしていた私の指先に、唇がかすった。

「ひゃっ……!!」
 心臓が跳ね上がる。
 (な、なに今の……キスされた、みたい……!)

 目の前の唇は、形がよくて、柔らかそうで。
 もっと触れてみたい——そんな衝動に駆られてしまう。
 そして吸い寄せられるように、私は顔を近づけていた。

 そっと重ねた唇は、想像以上に優しくて、ほんの一瞬触れただけで全身に熱が走る。
「……っ!」
 自分からしたくせに、心臓が破裂しそうになる。

 慌てて顔を離そうとしたそのとき——。
 ぐいっと手首を引かれ、ソファに押し倒される形になる。

 (うそっ……起きてた!?)
 驚きで頭が真っ白になる。
 至近距離にある碧の顔、掴まれた手首、組み敷かれる体勢——すべてが非日常すぎて息が詰まる。

(このまま、キスされちゃうの……!?)
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