年下ワンコと完璧上司に溺愛されて困っています。
 突っ伏したままふと横を見ると、(あおい)のコップがすっかり空になっているのに気づいた。
「アイスコーヒーでいい?」と声をかけると、碧はぱっと顔を輝かせ、「うんっ」と満面の笑みで頷いた。
 その笑顔があまりにも無邪気で、胸がきゅっと締めつけられる。

 コーヒーを注いで差し出すと、碧は「ありがとう!」と嬉しそうに受け取り、ゴクゴクと勢いよく飲んだ。
 喉を鳴らす仕草まで子犬みたいに愛らしくて、思わず目が離せなくなる。

 そのままサンドイッチに手を伸ばし、頬をふくらませてもぐもぐと食べる碧。
(……お腹、すいてたんだなあ)
 頬張る姿にほころぶ表情が可愛くて、気づけば私はただ見惚れてしまっていた。

「……って、いやいやいやいや!」
 あぶないっ、また流されるところだった!

 そのまま黙っていられなくなり、言葉が堰を切ったように溢れ出す。
「い、一体どういうつもりで!?」
 自分でも声が裏返って、余計に恥ずかしい。

「この間から絶対、からかってるでしょ!? ね!? ね!?」
 思わずテーブルをばんばん叩いてしまう。

 けれど、碧はまだサンドイッチをもぐもぐしながら、きょとんとした顔で私を見ていた。

「キスとかっ! バックハグとかっ! ……そういうのは気持ちを確かめ合ってからじゃ——」

「好きですよ?」
 必死にまくしたてる私を、碧はほっぺをふくらませながら、むにっと口を動かして遮った。
 そしてにこりと笑う。

「……へ?」

 流石にこの場では行儀が悪いと思ったのだろうか。
 碧は口に入っていたサンドイッチを飲み込み、コーヒーで喉を潤してから、もう一度口を開いた。

「僕、……おねーさんのこと、好きですよ?」

 あまりにも自然に。
 え、こんな告白ってある!? 息を吐くように言う!? しかもパンくずつけたまま!?

 混乱する私をよそに、碧はさらりと続ける。
「おねーさんは?」

「えっ……」

 いきなり投げかけられた問いに、思考が真っ白になる。

 そんな私をじっと見つめながら、碧は一歩踏み込むように声を落とした。
「僕のこと……好き?」

 その瞳は、不安と期待が入り混じった子犬みたいな光を宿していて。
 胸の奥がぎゅっと締めつけられる。

「あっ……う、うん。好き……だよ?」

 気づけば、勝手に口が動いていた。
 取り繕う余裕なんてなくて、頭で考えるよりも早く、心が答えてしまったみたいだった。

 ——やっぱり誤魔化せない。
 碧のことが頭から離れない。
 そう、私はとっくに……碧のことが好きだったんだ。

 「よかったーーぁ!!」
 碧は子犬みたいに目を輝かせ、にこにこと笑った。その無邪気さに胸が締めつけられる。

 ……けど。

(いやいやいやいや! こんなあっさりした告白ってどゆこと!? サンドイッチもぐもぐしてたじゃん!)
(もっとこう……ムードとかさあ……こういう時こそ肉食獣モードで、ドキドキさせてほしかった……!)

 嬉しいはずなのに、なんだか釈然としない思いだけが胸に残ってしまった。
 
 (……次はせめて、パンくずくらい払ってから告白してよね!)
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