年下ワンコと完璧上司に溺愛されて困っています。

第6話 ふざけないでよ!!

 …………お・く・れ。

 「う~~ん、何?」

 ……き・お・く・れ。

 頭の奥で響く声。妙に聞き取りやすく、まるで女子アナのナレーションみたいだ。

 次の瞬間、真っ白な空間にスポットライトがぱっと灯る。
 そこに浮かび上がったのは、凛としたスーツ姿の女性。

 『い・き・お・く・れ』

 ——滝川クリス●ルじゃん!!

 きりっとした微笑みで、彼女はピシャリと断言した。

 『いきおくれ』

 頭の奥にズドンと響く。

 「いやぁぁぁぁぁああ!!!」


 * * * * * *

 自分の悲鳴で飛び起きた。

 ……見慣れた天井。
 心臓がバクバクしている。
 (な、なんだ……夢、か……)

 “いきおくれ”——。
 そう、(あおい)にハマってしまったら覚悟しないといけないこと。

 まゆ姉に言われた言葉が頭をよぎる。

 「相手はまだ結婚なんて一ミリも考えてない若者だろうし、ハマったら——完全にいきおくれだよ」

 自分でもわかっていた。やっぱり碧と付き合うとなると問題は山積みだ。

 昨日は両想いだとわかったはずなのに、それ以上には進めなかった。
 “付き合おう”なんて言葉は出ていないし、そもそも碧に彼女がいるのかすら確認していない。

 結局、普通にたわいもない話をして。
 一緒にジョジョのアニメDVDを第一部から見ていたら、あっという間に時間が過ぎていった。

 夕方になって碧は「また来るね」と言って立ち上がった。
 「次からは来る前に連絡ちょうだいね」ってLINE交換して、それだけ。
 特にお別れのチューとかもなく、普通に帰っていった。

 ……べつに期待してたわけじゃない。
 ちょっと……いや、かなり期待しちゃってたけど。

 あの首筋チュー以来、甘いことは何もなかった。
 「だめ!」と言ったらちゃんとやめてくれたし。
 ……そう。碧はやっぱり可愛いワンコだった。

 ……でも。
 碧と両想いだとわかっても、浮かれてばかりはいられない。

 これからの碧との関係について、流されちゃダメだ。ちゃんと考えなきゃ——そう自分に言い聞かせる。

 結婚願望……私にあるんだろうか。
 アラサーに差し掛かった頃から、友人たちは次々に結婚していった。
 ブーケを受け取った数も、一度や二度じゃない。
 ブーケトスで偶然キャッチしたこともあれば、「杏なら絶対いい人見つかるよ」と直接手渡してくれた友人もいた。

 ……それでも私は、結婚したいとは思わなかった。
 心の中にはいつもブチャラティと露伴先生がいたし、またクズ男に引っかかるのも怖かったから。

 碧は……クズ、なのかな?
 確かにモテモテなんだろうけど、私の前ではときどき肉食獣の片鱗を覗かせながら、ただの無邪気なワンコにしか見えない。

 ——次に会ったときは、ちゃんと確認しよう。これからのことを。

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