年下ワンコと完璧上司に溺愛されて困っています。
月曜日——。
週明けから私は市場調査に駆り出され、後輩と一緒に都内のバラエティショップや文具店を何軒も回っていた。
新商品の売れ筋や陳列の工夫、他社との価格差までチェックして、タブレットにはすでに調査データがぎっしり入力されている。
ようやく最後の店舗を出たところで、どっと肩の力が抜けた。
夕方前の空気は少し蒸し暑く、歩道を歩きながら私はバッグを抱え直す。
「先輩、今日の調査データは私がまとめて共有しておきますね」
隣を歩く後輩の森下が、タブレットを軽く掲げて笑顔を向けてくる。
「ありがとう。今日は直帰でいいから、無理しないでね」
「はい! じゃあ、私はこれで失礼します」
時計はまだ十六時を少し過ぎたところ。
後輩はそのまま帰宅だが、私はこのあと別プロジェクトのミーティングがあるため会社に戻らなければならない。
森下は、駅の方へ歩き出した。
けれど、ふいに「あっ」と声を上げて立ち止まる。
「そういえば先輩。来週から新しい部長が着任されるんですよね」
振り返った森下が思い出したように言った。
「高峰 駿さん。ナポリ支社から戻られるとか」
「そうだねえ」
(ナポリ……! ジョジョの第5部・黄金の風の舞台……!)
(2020年に聖地巡礼の旅を予約してたのに、コロナ禍でキャンセルしてからそのまま行けてない。
主任になってからは仕事が忙しくて、夢のまた夢に……)
(……っていうかここ1週間、碧のことで頭いっぱいで、新任上司が来ることすっかり忘れてたわ!)
「部長って英語もイタリア語も堪能らしいですし、ナポリ支社では部下をしっかり守ってくれる上に、会社の方針はきちんと徹底するって評判らしいですよ」
「……なにぃーー!!」
思わず声が裏返りそうになり、慌てて咳払いでごまかす。
(部下を守りながら組織の命令も守る……!? そ、それってブチャラティじゃん!!)
「それでいて超イケメンって噂ですよーー! うちの課、男性社員少ないうえに、居てもおっさんか、あの馬鹿ですからねえ」
「おっさんって……。でも高峰部長もアラフォーじゃなかったっけ?」
「イケメンは正義!! きっと脂の乗り切ったイケオジですよーー! あ~、楽しみ」
ふふ、若いなあ。
まあ……私だって、イタリアの話が聞けるのはちょっと楽しみなんだけど。
「まあ、わたしもちょっとは楽しみかな」
「ですよねえ!!」
森下が嬉しそうに声を弾ませる。
その笑顔につられて、私も思わず口元がゆるんだ。
言いたいことを言えて満足したのか、森下はタブレットを抱え直す。
「じゃ、私はこれで。先輩、ミーティング頑張ってくださいね」
「う、うん。ありがとう」
森下と分かれたあと、ひとり歩きながら私は大きく息を吐いた。
(イタリア帰りで、理想の上司みたいな評判……。そんな人がうちの部長になるなんて……大丈夫かな、私……)
バッグを抱き直し、会社へと足を向けた。
週明けから私は市場調査に駆り出され、後輩と一緒に都内のバラエティショップや文具店を何軒も回っていた。
新商品の売れ筋や陳列の工夫、他社との価格差までチェックして、タブレットにはすでに調査データがぎっしり入力されている。
ようやく最後の店舗を出たところで、どっと肩の力が抜けた。
夕方前の空気は少し蒸し暑く、歩道を歩きながら私はバッグを抱え直す。
「先輩、今日の調査データは私がまとめて共有しておきますね」
隣を歩く後輩の森下が、タブレットを軽く掲げて笑顔を向けてくる。
「ありがとう。今日は直帰でいいから、無理しないでね」
「はい! じゃあ、私はこれで失礼します」
時計はまだ十六時を少し過ぎたところ。
後輩はそのまま帰宅だが、私はこのあと別プロジェクトのミーティングがあるため会社に戻らなければならない。
森下は、駅の方へ歩き出した。
けれど、ふいに「あっ」と声を上げて立ち止まる。
「そういえば先輩。来週から新しい部長が着任されるんですよね」
振り返った森下が思い出したように言った。
「高峰 駿さん。ナポリ支社から戻られるとか」
「そうだねえ」
(ナポリ……! ジョジョの第5部・黄金の風の舞台……!)
(2020年に聖地巡礼の旅を予約してたのに、コロナ禍でキャンセルしてからそのまま行けてない。
主任になってからは仕事が忙しくて、夢のまた夢に……)
(……っていうかここ1週間、碧のことで頭いっぱいで、新任上司が来ることすっかり忘れてたわ!)
「部長って英語もイタリア語も堪能らしいですし、ナポリ支社では部下をしっかり守ってくれる上に、会社の方針はきちんと徹底するって評判らしいですよ」
「……なにぃーー!!」
思わず声が裏返りそうになり、慌てて咳払いでごまかす。
(部下を守りながら組織の命令も守る……!? そ、それってブチャラティじゃん!!)
「それでいて超イケメンって噂ですよーー! うちの課、男性社員少ないうえに、居てもおっさんか、あの馬鹿ですからねえ」
「おっさんって……。でも高峰部長もアラフォーじゃなかったっけ?」
「イケメンは正義!! きっと脂の乗り切ったイケオジですよーー! あ~、楽しみ」
ふふ、若いなあ。
まあ……私だって、イタリアの話が聞けるのはちょっと楽しみなんだけど。
「まあ、わたしもちょっとは楽しみかな」
「ですよねえ!!」
森下が嬉しそうに声を弾ませる。
その笑顔につられて、私も思わず口元がゆるんだ。
言いたいことを言えて満足したのか、森下はタブレットを抱え直す。
「じゃ、私はこれで。先輩、ミーティング頑張ってくださいね」
「う、うん。ありがとう」
森下と分かれたあと、ひとり歩きながら私は大きく息を吐いた。
(イタリア帰りで、理想の上司みたいな評判……。そんな人がうちの部長になるなんて……大丈夫かな、私……)
バッグを抱き直し、会社へと足を向けた。