年下ワンコと完璧上司に溺愛されて困っています。
 両手で顔を覆って震えていると、青年がクスクス笑った。
 「ふふっ。おねーさん、かわいい」

 立てた膝の上に片肘をつき、悪戯っぽく目を細める。
 そして少し間を置いてから、さらっと口にした。

 「……ふふ。そんなに焦らなくても。僕、まだ手は出してませんよ」

 私は顔を上げた。ぽかんと口を開けたまま固まる。

 「……は?」

 青年はにっこり笑って続けた。
 「ちゃんと送ってきて、ベッドに寝かせてあげただけ。僕、紳士ですから」

 「そ、そう……よ、よかった……! な、何もなかったんだ……」
 胸を撫で下ろす私。

 ………………。

 「……って、ちょっと待って。今、“まだ”って言ったよね!?」

 遅れて気づき、慌てて声を張り上げる。
 青年は目を細め、悪戯っぽく笑った。

 「気づきました?」

 人懐っこい笑顔を浮かべながら、子犬みたいに尻尾を振っていそうな無邪気さで笑っている。

(……こいつ、まったく油断ならない!!)

 「だったら服くらい着なさいよ!」

 声を荒げる私に、青年は「あぁ」と軽く頷いて笑った。

 「それはですね……昨日おねーさん、僕にちょっと“スプラッシュ”しちゃいまして」

 「…………はあああああ!?!?」

 「ほら、こう……滝のように、E.A……エクストリーム・アタックを」
 さらっとジェスチャーつきで説明してくる。

 (エクストリーム・アタック? 妙に発音いいし!)
 (なにそれ、新手の幽波紋(スタンド)!?)

 いやいやいやいや!!
 要するに——私、ゲ●っちゃったってこと~~!?

 私の顔から血の気が引いた。

 「や、やめて!! お願いだからこれ以上言わないでぇ!!」

 「だからシャツは非常事態で。ほら、軽くすすいで洗面所に干してありますから」

 にこっと爽やかに言われ、私はその場でバタリと倒れ込んだ。

 (うわあああああ! 恥ずかしすぎる! よりによってイケメンにそんな醜態を……!)

 チーーーーン……。

 心の中で鐘が鳴り響き、私は掛け布団を頭までかぶった。
 しばし現実逃避したあと、布団の中で深呼吸。

(……落ち着け、杏。冷静になれ。まず状況を整理しよう)
< 2 / 34 >

この作品をシェア

pagetop