年下ワンコと完璧上司に溺愛されて困っています。
シャワーの音がしているあいだに、私は冷蔵庫を開けた。
餃子の口になっていたが、時間がかかるし皮もないから却下。
碧は朝からほとんど何も食べていないはずだ。お腹が空いているに違いない。
残暑厳しいこの時期、冷たくて手早く作れるものといえば、もうそうめん一択だ。迷う余地などなかった。
氷を浮かべた器に盛りつけて、薬味を並べた頃。
ちょうど碧がタオルで髪を拭きながら出てきた。
以前、肝心のバスタオルを出し忘れてしまい、ラッキースケベ展開になったことがある。
今回は着替えもバスタオルもバッチリ用意していた。
もう二度とあんなハプニングは起こすまい……。
いや、ちょっとぐらいは起きてもいい気もするけど。
——って、そうだ。今更だけどわたしって、既に碧の全てを見てしまっているんだよね。
途端に顔が真っ赤になったのが自分でもわかる。
普段は服の上からだとスレンダーに見えるのに、脱いだらほどよくついた筋肉が浮かび上がる。
無駄のない、理想的なライン。……そんなの、思い出すだけで心臓に悪い。
——いやいやいや。今はそれどころじゃない!
慌てて頭を振り、手をパパパッと空中で仰いで妄想を追い払った。
その様子に碧が首をかしげる。
「おねーさん? どうかし……」
「なんでもない!」
食い気味の即答に、碧は目をぱちくりさせた。
じとーっとした視線を向けられ、背中に冷や汗がつたう。
「……絶対、何か考えてましたよね?」
鋭いツッコミに、心臓がドクンと跳ねる。
と、次の瞬間。
テーブルに置いたそうめんが碧の視界に飛び込んだ。
「うわ、そうめん! 冷たくて美味しそう!」
さっきまでの疑惑の目はどこへやら、一転して子犬みたいに目を輝かせる碧に、私は苦笑して席をすすめた。
「ほら、冷たいうちにどうぞ」
「いただきます!」
箸を手にした碧は、ずるずると勢いよく麺をすすった。喉を鳴らす音がやけに心地いい。
「んー! 美味しい! 暑い日はやっぱりこれですよね」
嬉しそうに頬をほころばせる碧を見ていると、自然と笑みがこぼれる。
私も隣に座って箸を取り、ふたりでつるつるとそうめんを平らげた。
片付けも簡単に済ませて、ほっと一息。
「……いつもならもう寝てる時間でしょ? 眠たくない?」
気遣うように尋ねると、碧は首を横に振った。
「うん。待ってる間にちょっと寝ちゃったんで、大丈夫です」
「そっか……」
胸の奥が少し熱くなる。
私は唇を引き結び、思い切って口を開いた。
「じゃあ……話、出来るかな?」
碧がコクリを頷く。
「……まず、私から言うね」
胸の奥がぎゅっと痛む。
勇気を振り絞って、私は彼をまっすぐに見つめた。
「えっと……私、私ね。碧のことが好き。ううん、大好き」
「碧が想ってくれてるよりも、ずっと」
「っ……」
正面からぶつけた言葉に、碧の目が大きく見開かれた。
次の瞬間、顔を真っ赤にして、腕でぱっと顔を隠してしまう。
何この反応?
子犬モードでも肉食獣モードでもない。……え、隠しても耳まで赤いじゃない。
まあいい。今は大事なことを伝えなきゃ。
「それでね。他の男とキスしてる碧を見ちゃって……嫉妬でおかしくなりそうだったの」
「……付き合ってるわけでもないのにね」
碧は真っ赤になりながら、うつむいてしまった。
重すぎるよね。聴きたくないよね。
ごめん……。
でも、それでも伝えなきゃ。
「……碧に会ったら、もう引き返せなくなると思って。自分の気持ちに蓋をして逃げてた」
「でも本当は、向き合うのが怖かっただけ」
唇が震える。だけど、それでも続ける。
「今日、碧が来てくれてわかったの。私はもう引き返せない。それほどに、碧のことを――」
言い終えるより早く。
うつむいていた碧が、ガバッと私に覆いかぶさってきた。
「えっ……!」
視界いっぱいに碧の顔が迫る。ローテーブルがガタリと揺れ、背中にひやりと床の感触が走った。
軽く頭をぶつけて「……いった……」と小さく声が漏れる。
衝撃はあったけれど、碧が咄嗟に私の頭を手で押さえてくれていた。
見上げれば、泣きそうな顔で覆いかぶさっている。
余裕なんて、欠片もない。――そんな顔だった。
間近に迫る彼の吐息に、心臓が破裂しそうなほど暴れ出した。
餃子の口になっていたが、時間がかかるし皮もないから却下。
碧は朝からほとんど何も食べていないはずだ。お腹が空いているに違いない。
残暑厳しいこの時期、冷たくて手早く作れるものといえば、もうそうめん一択だ。迷う余地などなかった。
氷を浮かべた器に盛りつけて、薬味を並べた頃。
ちょうど碧がタオルで髪を拭きながら出てきた。
以前、肝心のバスタオルを出し忘れてしまい、ラッキースケベ展開になったことがある。
今回は着替えもバスタオルもバッチリ用意していた。
もう二度とあんなハプニングは起こすまい……。
いや、ちょっとぐらいは起きてもいい気もするけど。
——って、そうだ。今更だけどわたしって、既に碧の全てを見てしまっているんだよね。
途端に顔が真っ赤になったのが自分でもわかる。
普段は服の上からだとスレンダーに見えるのに、脱いだらほどよくついた筋肉が浮かび上がる。
無駄のない、理想的なライン。……そんなの、思い出すだけで心臓に悪い。
——いやいやいや。今はそれどころじゃない!
慌てて頭を振り、手をパパパッと空中で仰いで妄想を追い払った。
その様子に碧が首をかしげる。
「おねーさん? どうかし……」
「なんでもない!」
食い気味の即答に、碧は目をぱちくりさせた。
じとーっとした視線を向けられ、背中に冷や汗がつたう。
「……絶対、何か考えてましたよね?」
鋭いツッコミに、心臓がドクンと跳ねる。
と、次の瞬間。
テーブルに置いたそうめんが碧の視界に飛び込んだ。
「うわ、そうめん! 冷たくて美味しそう!」
さっきまでの疑惑の目はどこへやら、一転して子犬みたいに目を輝かせる碧に、私は苦笑して席をすすめた。
「ほら、冷たいうちにどうぞ」
「いただきます!」
箸を手にした碧は、ずるずると勢いよく麺をすすった。喉を鳴らす音がやけに心地いい。
「んー! 美味しい! 暑い日はやっぱりこれですよね」
嬉しそうに頬をほころばせる碧を見ていると、自然と笑みがこぼれる。
私も隣に座って箸を取り、ふたりでつるつるとそうめんを平らげた。
片付けも簡単に済ませて、ほっと一息。
「……いつもならもう寝てる時間でしょ? 眠たくない?」
気遣うように尋ねると、碧は首を横に振った。
「うん。待ってる間にちょっと寝ちゃったんで、大丈夫です」
「そっか……」
胸の奥が少し熱くなる。
私は唇を引き結び、思い切って口を開いた。
「じゃあ……話、出来るかな?」
碧がコクリを頷く。
「……まず、私から言うね」
胸の奥がぎゅっと痛む。
勇気を振り絞って、私は彼をまっすぐに見つめた。
「えっと……私、私ね。碧のことが好き。ううん、大好き」
「碧が想ってくれてるよりも、ずっと」
「っ……」
正面からぶつけた言葉に、碧の目が大きく見開かれた。
次の瞬間、顔を真っ赤にして、腕でぱっと顔を隠してしまう。
何この反応?
子犬モードでも肉食獣モードでもない。……え、隠しても耳まで赤いじゃない。
まあいい。今は大事なことを伝えなきゃ。
「それでね。他の男とキスしてる碧を見ちゃって……嫉妬でおかしくなりそうだったの」
「……付き合ってるわけでもないのにね」
碧は真っ赤になりながら、うつむいてしまった。
重すぎるよね。聴きたくないよね。
ごめん……。
でも、それでも伝えなきゃ。
「……碧に会ったら、もう引き返せなくなると思って。自分の気持ちに蓋をして逃げてた」
「でも本当は、向き合うのが怖かっただけ」
唇が震える。だけど、それでも続ける。
「今日、碧が来てくれてわかったの。私はもう引き返せない。それほどに、碧のことを――」
言い終えるより早く。
うつむいていた碧が、ガバッと私に覆いかぶさってきた。
「えっ……!」
視界いっぱいに碧の顔が迫る。ローテーブルがガタリと揺れ、背中にひやりと床の感触が走った。
軽く頭をぶつけて「……いった……」と小さく声が漏れる。
衝撃はあったけれど、碧が咄嗟に私の頭を手で押さえてくれていた。
見上げれば、泣きそうな顔で覆いかぶさっている。
余裕なんて、欠片もない。――そんな顔だった。
間近に迫る彼の吐息に、心臓が破裂しそうなほど暴れ出した。