年下ワンコと完璧上司に溺愛されて困っています。

第12話 お願い……僕の事、嫌いにならないで……

「えっ。清々しいほどのクズじゃん」

「あ……ハイ」
 失言に気づいた(あおい)は、また叱られた子犬モードに豹変した。

 私は呆れつつも、ふと疑問が浮かんでしまう。
「ねえ……そんなに尽くしたらさ、いくらふるいにかけてても、中には碧のこと好きになりすぎちゃう人、絶対出てくるでしょ?」
 
 そう口にしてみると、胸の奥にざらついた不安が広がってきた。
「あのスーツ男みたいに……無理に襲われたりしたら、ちゃんと逃げられるの?」

 碧を見つめながら、小さくため息をもらす。
「……また警察沙汰になったりしないか、心配なんだよ」

 碧はぽかんと目を丸くした。

 (……え、なんでその反応?)
 首をかしげる私に、碧は突然ぱっと表情を輝かせる。

「おねーさんっ!」
 ガバッと飛びついてきそうな勢い。

「待ちなさい!」
 私は慌てて手のひらを突き出す。

 ブレーキを掛けられた碧は「おっとっと」と体勢を崩しかけ、慌てて一歩下がってシュッと元の位置へ。
「ごめ……なさい」
 しゅんと肩を落としながらも、上目遣いでこちらを見つめてくる。
「そんなふうに心配してくれた人、はじめてで……嬉しくて、つい」

 (……いやいや、嬉しくて飛びつくって…… 完全にワンコじゃん)
 ツッコミを飲み込み、ぐっと指を突き出す。

「まだ話は終わってないから!!」
「……ハイ」
 碧は姿勢を正し、素直に返事をした。

 私は少しだけ息を整え、問いかける。
「本当に大丈夫なの?」

 碧は一瞬黙り込んだあと、ふっと視線を伏せた。
「確かに、強く断るのは今でも怖いです。……でも、バーテンやってると変なお客さんに絡まれるのは日常茶飯事で」
 
 そこで肩をすくめ、小さく笑う。
「危険回避能力は、自然とレベルアップしたんですよ」

 その笑みの奥に、ふと影が差す。
「だから正面から突っぱねるんじゃなくて、いなすとか、場を切るとか……逃げ道の作り方は覚えました」
 そう言って、どこか意味深に口元をゆがめる。

 (え……こわっ。でも彼なりに場数は踏んでるってことか……?)
 気になるけど、深入りしない方がいい気がして、私は慌てて首を振った。

 とりあえず、碧に関する心配は一段落した。胸のざわめきも少し落ち着いて、頭の中が冷静さを取り戻していく。
(……他に、確認しておくべきことはなかったっけ?)
 そう考えたとき、ふと、少し前に何か引っかかった碧の言葉があった気がしてきた。

「……ちょっと待って……」
 気になるフレーズが、アバッキオのムーディー・ブルースよろしく脳内で再生《リプレイ》される。

『「で、『わたしだけを見て!』とか『他に付き合ってる人がいるなんて許せない!』みたいに、
 独占欲が強そうな気配を感じたら……その瞬間シャッター下ろして塩対応です」』
 ハッとした。

「独占欲が強そうな人には塩対応って……!
 わたしがお店にシャツ返しに行った時に塩対応だったのって、まさかッ……!!」
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