年下ワンコと完璧上司に溺愛されて困っています。
「違います! 違いますっ! これだけは絶対に違います!」
 泣きそうな顔で必死に訴える碧。

(……これ“だけ”? また気になるフレーズだけど、いったん弁解を聞いてみよう)

「お店がお客さんと恋愛禁止なのは本当です! 気になるならマスターに今すぐ確認しても構いません!」
 そう言ってスマホを取り出す碧。今にも電話をかけそうな勢いだ。

「シャッター下ろすなら、わざわざ追いかけたりしませんしっ!」
 真剣な顔で見つめてくる碧。

「まあ……それはそうか」
 渋々うなずくと、「でしょでしょ」と言いたげに碧も得意げに頷いた。

「でもさー。わたし、碧がシャッター下ろす系の独占欲が強い女なんですけど?」
 片眉をつり上げて一瞥すると――

 また縮こまると思いきや、碧の反応は違った。

「おねーさんは違うんです!」
 真摯な目でこちらを見据えてくる。

「僕……事件があってからは、真剣に恋愛するのが怖くて。
 それ以降は“理想の彼氏”を演じてばかりで……本当の自分を見せたことなんてなかった。

 でも――おねーさんと出会ってからは違ったんです。
 大人なのに可愛くて、真剣に向き合ってくれるおねーさんに、本当の僕を知ってほしいって心から思った。
 気づけば、寝ても覚めてもおねーさんのことばかり考えてる。……事件(あれ)以来、こんなふうに誰かを想ったのははじめてなんです」

「だから……おねーさんが“僕のこと大好き”って言ってくれて、凄く凄く嬉しかった……」
 今にも泣き出しそうな碧。

「お願い……僕の事、嫌いにならないで……」
 うるんだ子犬のような瞳で見上げてくる。
 

「……ウッ」
 氷点下まで落ちていた心が、一気に再沸騰しかける。
 碧の真剣な気持ちは痛いほど伝わってきた。

「……」
 きゅーーん……と音が聞こえてきそうなくらい、つややかな瞳で見つめられる。

「碧の気持ちは伝わったよ」
 小さく微笑むと、碧は「ワッ!」としっぽを振りそうな勢いで顔を輝かせた。

「でもねえ」
 その言葉と同時に、しっぽの動きがピタリと止まる。

「はい。じゃあ元通り! ……ってなるわけないでしょ。わたし、“独占欲強い女”だから」
 わざと厭味ったらしく言い放った。

 しっぽは完全に収納。

「本当にわたしと付き合いたいんなら――今付き合ってる人、全員と手を切ってからにして?」
 ズバーーン、と畳みかけるように告げてやったのだった。
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