年下ワンコと完璧上司に溺愛されて困っています。
 その次の日。9月21日、日曜日の夜。
 
 お洒落居酒屋の半個室で、私の誕生日祝いの女子会が開かれていた。
 三十五歳――いよいよ完全にアラフォーの仲間入りである。
 数字にすると少し胸がざわつくけれど、こうして集まってくれる友人がいるのは、やっぱり幸せなことだ。

 「おめでとう!」「おめでとうございます!」
 まゆ姉と、菜月が、にこにこと笑いながらプレゼントを差し出してくれる。
 欲しかったブランドの財布。包みを開けた瞬間、嬉しさがこみあげて思わず声が弾んだ。

「ありがとう。この歳になってもお祝いしてもらえるなんて、幸せだよ」

「碧くんにもお祝いしてもらったんですか?」
 菜月が小首をかしげる。

「うん、まあ。今日、薔薇の花束が届いたんだよね」
 ――三十五本。ちゃんと何歳の誕生日か覚えていてくれたんだ。
 本当は手渡ししたかっただろうけど、言いつけを守って送ってくれた。
 思い出すだけで、じんわり胸が熱くなった。

 昨日、別れる前。
 碧は「明日のおねーさんの誕生日、一緒にお祝いしたい!」と子どもみたいに駄々をこねていた。
 けれど私は心を鬼にして、「次に会うのは身辺整理が終わってから!」と追い出した。
 それでも碧は「わかりました! 別れたらまた連絡します!」と元気いっぱいに言い残して帰っていった。
 ……一体、どこまで本気なんだろう。

 ふっと、まゆ姉が口元に笑みを浮かべた。
「健気ないい子よねえ。……クズでなければ」

 菜月も負けじと身を乗り出す。
「玄関の前で何時間も待っていてくれたなんて! キュン死案件ですよ! 
 エモい恋愛ドラマみたいじゃないですか! ……でも、“来る者こばまず”のくだりはドン引きすぎて放送NGですね」

「そうなんだよねえ。かわいいワンコなんだよねえ」
 
 思わず私が口にすると、すかさずふたりの声が重なる。
「……クズでなければ」

「杏ったら、クズ男を呼び寄せる体質なんじゃない?」
 まゆ姉が苦笑混じりに肩をすくめる。

「もう、やめて~~!」
 私は顔を両手で覆って、情けなく声を上げた。
 
「でも、本当に全員と手を切ったら、付き合うんですか?」
 菜月が真剣な目で尋ねてくる。

「……そうだねえ。本気を見せてくれたら、考えてもいいかな」
 言いながらも、胸の奥がチクリと痛んだ。
 それでも——、やっぱり期待してしまう自分がいる。
 
「クズ男の本気、見せてもらおうか」
 まゆ姉がグラスを掲げる。

 私たちは顔を見合わせ、笑いながら乾杯した。
 グラス同士が軽やかに鳴り合う音が、居酒屋のざわめきの中で妙に心地よく響いた。

 ――そして明日からは。
 イタリア帰りで「理想の上司」と評判の部長が着任する。
 一体どんな人物なのだろう。
 胸の奥に小さなざわめきを抱えながら、アラフォーの新しい日々が幕を開けようとしていた。

 
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