年下ワンコと完璧上司に溺愛されて困っています。
第2章 完璧上司に試される、オトナ女子
第13話 ……ック……!! こ、これは全員落ちるわ!
桜文具株式会社――女性向けの文具を強みに国内シェアを堅実に伸ばし、海外にも支社を展開する中堅メーカー。
その本社で花形とされるのが、企画・開発事業部だ。
広いフロアには、第一開発課と第二開発課あわせて五十名近い社員がずらりと並ぶ。
第一開発課は三十数名規模で男女比もそこそこ。
実績あるベテランと伸び盛りの若手が肩を並べ、大型プロジェクトを数多く手がけてきた精鋭部隊だ。
一方の第二開発課は十数名。女性比率が圧倒的に高く、
小規模なプロジェクトや市場調査、既存商品のリニューアル案を主に担当しており、アイデア勝負の課でもある。
その第二開発課に、杏は主任として所属していた。
女性社員の多いフロアは、普段は明るく華やかな空気が漂っている。
だが、その空気を一瞬で引き締めるように、ひときわ背の高い男が姿を現す。
黒髪をきちんと整え、仕立てのいいスーツを颯爽と着こなしたその佇まいは、ただ歩いてくるだけで視線を奪った。
整った額から鼻筋へと流れるラインは彫刻のように端正で、鋭い眼差しは自然と人を惹きつける。
――高峰 駿。ナポリ支社から帰任したばかりの、新しい部長だ。
「本日付で、企画・開発事業部の部長に着任しました、高峰駿です」
低く落ち着いた声が、フロア全体に響く。
「ナポリ支社での勤務が長かったため、日本での仕事は久しぶりになります。皆さんから学ぶ部分も多いと思いますが――」
一度言葉を切り、左右に視線を送る。揺るぎない眼差しに、自然と社員たちの背筋が伸びていく。
「ナポリでの経験を活かし、ここでも皆さんと共に結果を出していきたいと考えています。
私一人でできることは限られます。ですが、チームとして動けば必ず大きな力になる」
さらに声を少し強めて、締めの言葉を添える。
「一人では届かない目標も、皆でなら必ず達成できるはずです。共に挑みましょう」
堂々とした言葉に、フロアが一瞬しんと静まり返る。
その静寂をほどくように、駿がさらりと付け加えた。
「もっとも、まずは私が日本の資料フォーマットに慣れるところからですが」
ふっと目元を和らげると、張りつめていた空気が一気に和らいだ。
駿自身も肩の力を抜くように小さく息をつき、口元に微笑を刻む。
その笑みに――女性社員たちは胸を撃ち抜かれたように頬を染め、男性社員でさえも思わず見とれてしまった。
威厳と余裕、そのどちらも兼ね備えた姿に、場全体が自然と引き込まれていく。
そのとき――ほんの一瞬だけ、駿の視線が杏に留まった。
すぐに逸らされたのに、不思議と胸がざわつき、杏は小さく息を呑んだ。
(……ック……!! こ、これは全員落ちるわ!)
部下を信じて任せる姿勢、威厳の中に見える余裕。
ただ指示を下すだけじゃなく、一緒に歩んでくれる――そんな信頼感があった。
理想の上司。
そう思った瞬間、心の奥がかすかに波立った。
「――以上です。本日から、どうぞよろしくお願いします」
その言葉を合図に、女性社員たちが真っ先に手を叩いた。
パチパチパチッ――と軽やかな音がフロアに弾け、すぐに他の社員たちもそれに続く。
拍手は次第に大きなうねりとなり、温かな熱気がフロア全体を包み込んでいった。
その本社で花形とされるのが、企画・開発事業部だ。
広いフロアには、第一開発課と第二開発課あわせて五十名近い社員がずらりと並ぶ。
第一開発課は三十数名規模で男女比もそこそこ。
実績あるベテランと伸び盛りの若手が肩を並べ、大型プロジェクトを数多く手がけてきた精鋭部隊だ。
一方の第二開発課は十数名。女性比率が圧倒的に高く、
小規模なプロジェクトや市場調査、既存商品のリニューアル案を主に担当しており、アイデア勝負の課でもある。
その第二開発課に、杏は主任として所属していた。
女性社員の多いフロアは、普段は明るく華やかな空気が漂っている。
だが、その空気を一瞬で引き締めるように、ひときわ背の高い男が姿を現す。
黒髪をきちんと整え、仕立てのいいスーツを颯爽と着こなしたその佇まいは、ただ歩いてくるだけで視線を奪った。
整った額から鼻筋へと流れるラインは彫刻のように端正で、鋭い眼差しは自然と人を惹きつける。
――高峰 駿。ナポリ支社から帰任したばかりの、新しい部長だ。
「本日付で、企画・開発事業部の部長に着任しました、高峰駿です」
低く落ち着いた声が、フロア全体に響く。
「ナポリ支社での勤務が長かったため、日本での仕事は久しぶりになります。皆さんから学ぶ部分も多いと思いますが――」
一度言葉を切り、左右に視線を送る。揺るぎない眼差しに、自然と社員たちの背筋が伸びていく。
「ナポリでの経験を活かし、ここでも皆さんと共に結果を出していきたいと考えています。
私一人でできることは限られます。ですが、チームとして動けば必ず大きな力になる」
さらに声を少し強めて、締めの言葉を添える。
「一人では届かない目標も、皆でなら必ず達成できるはずです。共に挑みましょう」
堂々とした言葉に、フロアが一瞬しんと静まり返る。
その静寂をほどくように、駿がさらりと付け加えた。
「もっとも、まずは私が日本の資料フォーマットに慣れるところからですが」
ふっと目元を和らげると、張りつめていた空気が一気に和らいだ。
駿自身も肩の力を抜くように小さく息をつき、口元に微笑を刻む。
その笑みに――女性社員たちは胸を撃ち抜かれたように頬を染め、男性社員でさえも思わず見とれてしまった。
威厳と余裕、そのどちらも兼ね備えた姿に、場全体が自然と引き込まれていく。
そのとき――ほんの一瞬だけ、駿の視線が杏に留まった。
すぐに逸らされたのに、不思議と胸がざわつき、杏は小さく息を呑んだ。
(……ック……!! こ、これは全員落ちるわ!)
部下を信じて任せる姿勢、威厳の中に見える余裕。
ただ指示を下すだけじゃなく、一緒に歩んでくれる――そんな信頼感があった。
理想の上司。
そう思った瞬間、心の奥がかすかに波立った。
「――以上です。本日から、どうぞよろしくお願いします」
その言葉を合図に、女性社員たちが真っ先に手を叩いた。
パチパチパチッ――と軽やかな音がフロアに弾け、すぐに他の社員たちもそれに続く。
拍手は次第に大きなうねりとなり、温かな熱気がフロア全体を包み込んでいった。