片思い7年目
暗くなった窓の先で富士山がぼんやりと、ずっしりと、立っているのが見える。私が富士山の見える宿に泊まりたい、と言っていたのは優太が富士山を好きだと言ったからだった。SNSで見た富士山の写真に心を奪われたと、輝く瞳で語っていた高校二年の夏。私の日々の妄想には、富士山の見えるチャペルで祝福される二人、というシチュエーションが加わった。
ある日、私はなんとなしに富士山の話題を出した。聞いていた優太が渋い顔をしたのを覚えている。富士山の『ゴミ問題』の話だった。『綺麗な富士山』に惹かれた優太にとって、ポイ捨てや不法投棄の現実は想像以上にショックだったようで、それ以降、優太から富士山の話は出なくなった。優太は嘘でも綺麗な一面だけを見ていたかったのだ。
どんなに綺麗に見えて心惹かれるものでも、正反対の一面がある。そこまで愛せるかはその人による。優太は、結季奈の汚い部分も愛することができたのだろう。
納得はいかないとはいえ、結季奈との結婚に反対する気はない。私が言えなかった「好き」を伝える勇気を出した彼女に私が言えることなど無いのだから。
「よっし、これで最後や」
「今日スマホ触りすぎじゃない? ゲームでもしてるの?」
彼女との連絡とは分かっていたが、何度も口に出すのはご法度な気がして誤魔化しながら問いかけた。
「ちゃうちゃう」
再び千颯のスマホの画面を見せられる。そこには『ブロック一覧』の文字と、女性と思しき名前やアイコンがズラリと並んでいた。
「え? どういうこと?」
「ぶっちゃけ、俺にとってはチャンスやから。美代子のことちゃんと落とすならケジメつけな」
「彼女は? 振ったの?」
「俺には本命がおるから、君には本気にはなられへんかもしれん、って今まで付き合ぉてきた子には話してきた。付き合ぉたんは納得してくれた子だけや」
だから、急やけど別れた。千颯は私をまっすぐ見つめて言った。
「それよりも、女友達の方が切るん大変やったわ」
「今日ずっと連絡してたのって、これ?」
「一応、事情は話さんと筋通らんやろ」
浮気がどうこうなんて考えていた自分が恥ずかしくなる。何も言えなくなった私を見て、千颯はふは、と吹き出した。
「な? 俺、嘘はつかれへん言うたやろ? 美代子が惚れてくれたらいいなあって、本気で思とるよ」
拾ってほしいと言わんばかりの優しい瞳が揺れている。しかし、一つの疑問が浮かんだ。
「……なんで、私以外の子と付き合ってたの?」
「美代子と優太は絶対くっつくと信じとったからな! 美代子が諦めへんうちは勝ち目はないと思うたし。他の子好きになれたら楽かなって」
こんな俺は嫌? と千颯はおどけたように小首を傾げてみせる。私は横に首を振る。私がどれだけ優太を好きだったのか、一番知っているのは千颯なのかもしれないと思うと、嬉しくもあり悔しくもあった。
ある日、私はなんとなしに富士山の話題を出した。聞いていた優太が渋い顔をしたのを覚えている。富士山の『ゴミ問題』の話だった。『綺麗な富士山』に惹かれた優太にとって、ポイ捨てや不法投棄の現実は想像以上にショックだったようで、それ以降、優太から富士山の話は出なくなった。優太は嘘でも綺麗な一面だけを見ていたかったのだ。
どんなに綺麗に見えて心惹かれるものでも、正反対の一面がある。そこまで愛せるかはその人による。優太は、結季奈の汚い部分も愛することができたのだろう。
納得はいかないとはいえ、結季奈との結婚に反対する気はない。私が言えなかった「好き」を伝える勇気を出した彼女に私が言えることなど無いのだから。
「よっし、これで最後や」
「今日スマホ触りすぎじゃない? ゲームでもしてるの?」
彼女との連絡とは分かっていたが、何度も口に出すのはご法度な気がして誤魔化しながら問いかけた。
「ちゃうちゃう」
再び千颯のスマホの画面を見せられる。そこには『ブロック一覧』の文字と、女性と思しき名前やアイコンがズラリと並んでいた。
「え? どういうこと?」
「ぶっちゃけ、俺にとってはチャンスやから。美代子のことちゃんと落とすならケジメつけな」
「彼女は? 振ったの?」
「俺には本命がおるから、君には本気にはなられへんかもしれん、って今まで付き合ぉてきた子には話してきた。付き合ぉたんは納得してくれた子だけや」
だから、急やけど別れた。千颯は私をまっすぐ見つめて言った。
「それよりも、女友達の方が切るん大変やったわ」
「今日ずっと連絡してたのって、これ?」
「一応、事情は話さんと筋通らんやろ」
浮気がどうこうなんて考えていた自分が恥ずかしくなる。何も言えなくなった私を見て、千颯はふは、と吹き出した。
「な? 俺、嘘はつかれへん言うたやろ? 美代子が惚れてくれたらいいなあって、本気で思とるよ」
拾ってほしいと言わんばかりの優しい瞳が揺れている。しかし、一つの疑問が浮かんだ。
「……なんで、私以外の子と付き合ってたの?」
「美代子と優太は絶対くっつくと信じとったからな! 美代子が諦めへんうちは勝ち目はないと思うたし。他の子好きになれたら楽かなって」
こんな俺は嫌? と千颯はおどけたように小首を傾げてみせる。私は横に首を振る。私がどれだけ優太を好きだったのか、一番知っているのは千颯なのかもしれないと思うと、嬉しくもあり悔しくもあった。