片思い7年目
「昔、大人になったら、結婚しようって、約束したのにぃ」
「そんな綺麗な思い出、俺が汚したらあかんやん」
「でもっ、もぉ、持ってても苦しいんだよぉ」

 こんな思い出は、とっくに彼の中から消えていることだろう。まだ結婚どころか恋愛も知らず、ただずっと仲良しでいたい一心で発した言葉だった。せめてあの頃は、私のことを疎ましく思っていなかったことを願う。

「ほな、する?」

 千颯の声が低く響く。つり目の奥が熱を持った気がした。涙で濡れた指が、今度はゆっくりと頬を滑らせて、そのもどかしい動きがこれからの時間の現実味を持たせてくる。私は無意識のうちに全身に力が入った。

「あほ、嘘や」
「なっ……嘘つけないって言ったくせに!」
「したいのは嘘やないしな」

 千颯との間にいつもの空気が流れて、冷静さを欠いた行動だったと我に返った。私は千颯から目を逸らさずに少しずつベッドの端に移動した。すると「俺は熊か!」といつもの調子のツッコミが部屋に響いた。

「美代子が俺のこと本気で好きになってくれたら、ちゃんと恋人らしいことしよか」

 言い残して千颯は背中を向けた。静かになったスマホを見ているようだった。私は自分のベッドに戻って、その背中を見つめる。次、もし二人で旅行に来るなら、あの背中はもっと近くにあるだろうか。今は上手に想像ができない。でも、私にはマタタビや猫じゃらしといった自分でも知らない物を持っているのかも、なんて考えていた。

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