蝶々のいるカフェ
第2話 新しい設備
陽もだいぶ傾いてきた。人々が帰路につく。ファミレスに寄っていく者もいる。そんな中、私は自宅からカフェへ向かった。
もうじき陽もくれるだろうが、まだ建物のレンガには陽が当たり、ちょっと眩しい感じに反射していた。
そして、私はドアを開ける。
カラン……
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥からマスターの渋い声がした。
私も渋い声だが、マスターのような渋いかつ、温かみのある声は出せない。そう思いつつ、席に着いた。
席へ着くと、どうも違和感がある。何かがあるような気がした。ふと目を隅にやると、モニターがあった。32インチぐらいであろうか。今となっては、さほど大きいものではない。画面を見ると、店内が映されていた。
「マスター、このモニターはなんだい?」
「このモニターでも、蝶々が映るのですよ。注文時以外でも、スマホをかざすお客様が多かったので、設置しました」
たしかに、蝶々の居場所は、この店にいるときは常に気になるしな。
スマホなどに物、この場合だと蝶々だ。それを画面に合成させて動かしたりする技術を拡張現実と言う。ARやMR、XRなんかとも呼ばれるらしい。それぞれ微妙に意味が違うが、技術者でもなければ、あまり気にしなくてもだろう。スマホじゃなくて、眼鏡(グラス)のようなもので見るものもあるようだ。
「ご注文はお決まりですか?」
視線を上にすると、大学生だと思われる女性が立っていた。
「マスター、彼女は?」
「昨日から入った、アルバイトです。最近はお客様も多くなってきましたので」
店員札を見ると、どうやら『恋ヶ窪 砂花』という名前のようだ。
ここカフェの蝶々が話題になって、客が増えているのかな。
「アメリカンで」
メニューの『アメリカン』の文字に指をやり、注文した。
彼女が席を離れると、マスターが小さな声でこう言った。
「かなりドジな子でね。多めに見てやってください」
見た感じ、そうは思えなかった。
ガシャン……
「すみません。いま片付けますので」
なるほど。
窓の外を見ると、真っ暗になっていた。さっきまで陽が射していたのに時が経つのは早いな。
ほどよくして、先ほどのバイトのウェイトレスが私の席に来た。
「カプチーノです」
違う。やっぱりドジなのかな。
「いえ。私が頼んだのはアメリカンです」
「あっホントだ。すみません。間違えました」
この仕事、向いてないのでは。そう思いつつ。
「別に急がなくても、大丈夫ですよ。時間もありますし」
ドジじゃなくても、慣れてないと間違えもするかもしれないな。
私は新聞を読んで、待っていた。
ふと、設置されているモニターの事が気になった。蝶々は飛んでいるのだろうか。
視線をモニターへやると、蝶々は飛んでいるが、特にどこかに止まることなくて、あっちこっちへと移動していた。
再び、私は新聞を読んだ。
「お待ちどうさま」
渋い声がした。視線を上げると、マスターがこちらを向いていた。
「さっきの女性の方は?」
「少し疲れたようで、奥で休んでおります」
確かに無駄な動作が多いと、疲れやすいかもしれない。だが、私は失敗ばかりで彼女が気落ちしているのではないかと心配になった。
……
新聞もあらかた読みたい箇所は読んだし、そろそろ帰ろうとした頃……
さきほどのバイトのウェイトレスが客に文句も言われず、テキパキと仕事をこなしていた。
何があったのだろうか。
そういえば、眼鏡を掛けているな。さっきは掛けてなかったはず。
私はふとモニターが気になった。視界の隅で何かひらひらしているような感じを受けたからだ。
そして、モニターを見ると彼女の周りを蝶々がぐるぐると回るように飛んでおり、時折、客のほうへ飛んでいく。
彼女をその場所へ導いているようだ。あの眼鏡はスマホのアプリと同じ効果があるのかも。
注文を受けるときも、蝶々はメニューの文字に止まっている。
いつまでも蝶々がそのような行動をとるは分からないが、それまでに自信を回復して、ドジを解消しているといいな。
カラン……
そう思いつつ、私は店を出た。
もうじき陽もくれるだろうが、まだ建物のレンガには陽が当たり、ちょっと眩しい感じに反射していた。
そして、私はドアを開ける。
カラン……
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥からマスターの渋い声がした。
私も渋い声だが、マスターのような渋いかつ、温かみのある声は出せない。そう思いつつ、席に着いた。
席へ着くと、どうも違和感がある。何かがあるような気がした。ふと目を隅にやると、モニターがあった。32インチぐらいであろうか。今となっては、さほど大きいものではない。画面を見ると、店内が映されていた。
「マスター、このモニターはなんだい?」
「このモニターでも、蝶々が映るのですよ。注文時以外でも、スマホをかざすお客様が多かったので、設置しました」
たしかに、蝶々の居場所は、この店にいるときは常に気になるしな。
スマホなどに物、この場合だと蝶々だ。それを画面に合成させて動かしたりする技術を拡張現実と言う。ARやMR、XRなんかとも呼ばれるらしい。それぞれ微妙に意味が違うが、技術者でもなければ、あまり気にしなくてもだろう。スマホじゃなくて、眼鏡(グラス)のようなもので見るものもあるようだ。
「ご注文はお決まりですか?」
視線を上にすると、大学生だと思われる女性が立っていた。
「マスター、彼女は?」
「昨日から入った、アルバイトです。最近はお客様も多くなってきましたので」
店員札を見ると、どうやら『恋ヶ窪 砂花』という名前のようだ。
ここカフェの蝶々が話題になって、客が増えているのかな。
「アメリカンで」
メニューの『アメリカン』の文字に指をやり、注文した。
彼女が席を離れると、マスターが小さな声でこう言った。
「かなりドジな子でね。多めに見てやってください」
見た感じ、そうは思えなかった。
ガシャン……
「すみません。いま片付けますので」
なるほど。
窓の外を見ると、真っ暗になっていた。さっきまで陽が射していたのに時が経つのは早いな。
ほどよくして、先ほどのバイトのウェイトレスが私の席に来た。
「カプチーノです」
違う。やっぱりドジなのかな。
「いえ。私が頼んだのはアメリカンです」
「あっホントだ。すみません。間違えました」
この仕事、向いてないのでは。そう思いつつ。
「別に急がなくても、大丈夫ですよ。時間もありますし」
ドジじゃなくても、慣れてないと間違えもするかもしれないな。
私は新聞を読んで、待っていた。
ふと、設置されているモニターの事が気になった。蝶々は飛んでいるのだろうか。
視線をモニターへやると、蝶々は飛んでいるが、特にどこかに止まることなくて、あっちこっちへと移動していた。
再び、私は新聞を読んだ。
「お待ちどうさま」
渋い声がした。視線を上げると、マスターがこちらを向いていた。
「さっきの女性の方は?」
「少し疲れたようで、奥で休んでおります」
確かに無駄な動作が多いと、疲れやすいかもしれない。だが、私は失敗ばかりで彼女が気落ちしているのではないかと心配になった。
……
新聞もあらかた読みたい箇所は読んだし、そろそろ帰ろうとした頃……
さきほどのバイトのウェイトレスが客に文句も言われず、テキパキと仕事をこなしていた。
何があったのだろうか。
そういえば、眼鏡を掛けているな。さっきは掛けてなかったはず。
私はふとモニターが気になった。視界の隅で何かひらひらしているような感じを受けたからだ。
そして、モニターを見ると彼女の周りを蝶々がぐるぐると回るように飛んでおり、時折、客のほうへ飛んでいく。
彼女をその場所へ導いているようだ。あの眼鏡はスマホのアプリと同じ効果があるのかも。
注文を受けるときも、蝶々はメニューの文字に止まっている。
いつまでも蝶々がそのような行動をとるは分からないが、それまでに自信を回復して、ドジを解消しているといいな。
カラン……
そう思いつつ、私は店を出た。