蝶々のいるカフェ

第3話 喧嘩する客

 ひんやりとした空気が頬を刺激する。今日は天気予報では気温が上がるはずだが、まだ低いようだ。

 そんな中、私はいつものカフェへ行く。

 カラン……

「いらっしゃいませ」


 私は席に着き、コーヒーを頼んだ。

「カプチーノを頼む」

「おや。今日はいつもとはだいぶ違った趣向のものですね」

「ミルク系が飲みたいときもあるさ」

 スマホで周りをかざしてみた。

 ……

 今日は私の席に蝶々が来てくれるかなと思ったが、来なかった。

 新聞を読んで、頼んだものが来るのを待つ。

「やった~!」

 子供が声を嬉しそうな声を上げた。母親と一緒に来た客のようである。

 スマホの画面をのぞき込んで、喜んでいる。つまり、席に蝶々が来たのだろう。来るときは来るんだな。

 しかし、この蝶々が表示されるアプリは誰が作ったのだろうか。ウェイトレスを手伝ったりと、人間じみているときもある。


「どうぞ」

 私のところにカプチーノがやってきた。

 視線を横にやると、子供は少し豪華なメニューを出されて、嬉しそうに食べていた。

 私はそれをカプチーノを片手に見ていた。

 しばらくすると、その親子はマスターに礼を言い去っていった。

 私は再び新聞を読む。


 カラン……

 また客が入ってきたようだ。

 男女の二人客のようだ。見た感じ恋人のようだ。しぐさからそれは分かる。しかし、顔は二人とも険しかった。

「カフェモカ」

「私もカフェモカ」

 なんとなくぶっきらぼうな注文の仕方である。

 様子をうかがっていると、どうやら蝶々が席に止まったようだ。モニターを見ると、確かに止まっている。

 蝶々が気を使ったのであろうか。

「特別なメニュー?」

「そうなんだ」

 しかし、男女の客はあまり嬉しそうではなかった。

 女性が男性のほうをキッとした顔を向いた。

「最近、私以外の女の人と会っていたりしてる?」

「いきなりなんなんだ」


 なにかが始まりそうな予感である。私は興味なさそうな顔をして新聞に目を向け、しかし耳はあちらに向けた。

「この前、街で見たんだよね。あなたと、私の知らない女性が歩いていたのを」

「うん? 全然記憶にないけど」


 まあ。事実でも、はいそうですよ。とは言わないだろうなぁ。

「スマホでその女性を撮っていたりもしていたよ」

「スマホで?」

 女性はテーブルを指でコンコンとイライラしながら、叩いていた。

 男性は思い出したような顔をして、女性のほうを向いた。

「それ、スマホアプリのテストだよ。私がコンピューター関連の会社で働いていることは知っているだろ」

「スマホアプリ?」

 男性は鞄からパンフレットを取り出した。

 私は新聞に目を向けているふうにしながらも、横目でどんなものかを見ようと試みた。

 どうやら写真を撮ると、被写体の横に人気キャラクターが合成されるアプリのパンフレットのようだ。

「すでにこのアプリはストアに並んでいるけど、バージョンアップのためのテストをしていたんだ。君も使ったことあるだろ?」

「……、確かに使ったことある。このアプリのアイコンも見たことある」

 女性は誤解は解けたものの、ばつが悪そうな顔をしていた。


「特別メニューのケーキでございます」

 そこへマスターがやってきた。

「わっ! すごい」

「このケーキ、本当に頂けるの?」

 この後、二人は嬉しそうな顔で会話を楽しみながら、ケーキを食べていた。そして、満足して帰っていった。

 しかし、今日は2回も蝶々が席に来て止まるところを見た。

 いつかは私のところにも来てくれるだろうか。前にもこんなことを思った気もするが。


 カラン……

 そして、私は店を出た。






< 3 / 9 >

この作品をシェア

pagetop