蝶々のいるカフェ

第4話 その猫には何が見えたか

 今日は世間は休日だ。私はいつも通りカフェに向かった。

 カラン……

 ドアを開けると、足元を後ろから何かが通り過ぎた。素早くてよくわからなかったが、動物だろうか。

 視線を下から前へやると、白い猫がいた。まだ小さいようだ。子猫だろう。

「にゃあ~」

 どうやらこの猫が私と一緒に入ってきたみたいだ。


「いらっしゃいませ!」

 バイトの恋ヶ窪さんが元気な声を発した。今日は眼鏡を掛けていなかった。

「今、一緒に猫が入ってきたみたいです。その猫です」

 私が指を指しながら、そう言った。

「可愛らしい猫ですけど、ここに居てはいけませんね」

 彼女は視線を対象に集中させ、両手を広げて、その猫を捕まえようとした。

 スッ……

 猫はほとんど音を立てないで、彼女をかわして、奥へ入っていった。

「カフェに猫がいるのは、まずいな。野良猫かもしれないし。私も手伝おう」

 私はカウンターの奥へ逃げた猫を追った。

「えっ、なんだ?」

 マスターは今、猫が居ることに気づいたのか、ビックリした声を出した。


 サッ……

 猫は奥へ逃げたかと思うと、今度は客席の上に飛び乗った。猫はこちらを向いている。身体は向こう側だ。私たちをからかっているのだろうか。

 幸い、今日は私以外の客がいないようだ。なので、騒ぎにはなっていない。

 猫は、じっと私の目を見た後、前を向き、今度はキッチンのほうへ向かっていった。

 マスターはキッチンへの入り口のドアを閉めようとしたが、間に合わなかった。

「しまった! 早く猫を出さないと」

 私と恋ヶ窪さんとマスターで、猫を冷蔵庫の前まで追い込んだ。

 私はじりじりと足をちょっとずつ前に出し、前進する。猫は先ほどのように体は向こう、つまり冷蔵庫側を向いているのだが、顔はこちら側を向いている。

 捕まえるだけなら、顔はこっちを向いていないほうが良いが、向いているのだから仕方がない。

 そおっと両手を猫の両脇にだす。

 ササッ

 猫は私と恋ヶ窪さんの間を通って逃げた。

 マスターは、ほんと、どうしようみたいな顔をしていた。

 そして、カウンターの隅に置いてある、『closed』と書かれた看板を取り出し、ドアの前に掛けた。

 客が入ってこないのなら、あまり焦って捕まえる必要もないだろう。もちろん、猫の捕獲は続行しないといけないが。

 その後も猫は、椅子に寝転んだり、テーブルに下へ隠れたりした。

「ん?」

 どうも猫の様子をうかがっていると、何かを追いかけているようにも見える。ただ、追いかける対象がわからない。

「何か私たちに見えないものを追っているような気がする」

 そう私が問いかけると、マスターも恋ヶ窪さんもうんうんと頷いた。

「たしかに、時折、何かを追いかけているような動きだったね」

「私もなんだか動きがおかしいと思ったのです」

 見えないもの……

 そうだ。アプリの蝶々だ。

「マスターは蝶々が見られるグラスを着けているのに、わからなかったのですか?」

「今日はグラスの調子が悪くて、普通の眼鏡を掛けていたんだ。恋ヶ窪君のやつも調子が悪くてね。でも、モニターになら映っているはず」

 みんなでモニターのほうへ目をやると、確かに蝶々が映っていて、それを猫が追いかけていた。

 猫にはアプリの蝶々が見えるのだろうか。

 まあ、それがわかったからと言って、猫が簡単に捕まえられるという事でもなく、私たちは諦めて客席に座り、会話を始めた。


 ここ最近、忙しかったらしく、良い休憩になったらしい。

 しばらく話をしていると、いつの間にか猫がおとなしくなっていた。

 客席の椅子に、ごろんと寝転がっていた。

 モニターを見ると、猫の背中に蝶々が止まっていた。

 猫も疲れたんだろう。




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