彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…


取調室の冷たい机を挟み、刑事の厳しい追及を受けても、麻友は涼しい顔で爪を眺めていた。だが、刑事が「茅野百合さんについて、話を聞かせてもらおうか」と切り出した瞬間、彼女の表情が一変する。

「ああ、あの子のこと」
麻友は、うっとりとした表情で天井を仰いだ。
「邪魔だったのよ、あの子。秋太さんの優しさにつけ込んで、妹の楓とくっつけようと必死だった。本当に秋太さんのことを思うなら、黙って身を引くのがファンの務めでしょう?」

悪びれる様子は微塵もない。それどころか、その口調はまるで正義のヒーローが自らの武勇伝を語るかのようだった。

「だから、教えてあげたの。秋太さんの隣に立つ資格があるのは、この私だけだって。なのに、あの子ったら生意気にも言い返してきて…。だから、少しだけ背中を押してあげたのよ。そしたら、蝶々みたいに、ひらひらーって綺麗に飛んでいったわ」

クスクスと喉を鳴らして笑う麻友の姿に、百戦錬磨の刑事さえも背筋に冷たいものを感じた。
「私はね、秋太さんにまとわりつく害虫を駆除してあげただけ。秋太さんの純粋な愛を守るために、汚いストーカーを始末したの。私は何も悪くない。むしろ、感謝されるべきじゃないかしら?」

歪んだ愛と正義感。彼女にとって、百合の殺害は「愛する人を守るための崇高な行為」でしかなかったのだ。
百合が楓と秋太の仲を応援していたことに嫉妬した麻友が、口論の末に突き落とした。それが、すべての真相だった。

すべての真相が、明らかになった。
長かった復讐劇は、こうして幕を閉じた。ニュースで麻友逮捕の報を見届けた京子は、静かにテレビを消した。達成感も、喜びもない。ただ、胸にぽっかりと大きな穴が空いたような、途方もない虚無感が広がっていた。
内藤麻友が逮捕されて数週間。世間を震撼させた連続殺人事件の犯人として、彼女の名は連日メディアを賑わせた。

取調室の麻友は、反省の色など微塵も見せなかった。男性刑事には媚びるような視線を送り、巧みに誘惑しようと試みる。反対に、女性刑事に対しては敵意を剥き出しにし、罵詈雑言を浴びせることも一度や二度ではなかった。その異常な言動は、担当の捜査官たちを疲弊させた。

そんな彼女に変化が訪れたのは、国選弁護士から一冊の古い日記を手渡されてからだった。それは、麻友が殺害した実の母親が遺したものだった。

最初は読むことすら拒否していた麻友だったが、独房の静寂の中、恐る恐るページをめくり始めた。そこには、彼女の知らない母親の姿があった。

『お腹の子が、今日も元気に動いています。早く会いたいな。麻友と名付けましょう。友達がたくさんできますように』
『麻友が生まれました。なんて可愛いんでしょう。この子を腕に抱けるだけで、私は世界一の幸せ者です』

日記には、麻友が生まれることを心待ちにし、その誕生を心から喜ぶ、愛情に満ちた言葉が溢れていた。しかし、麻友が物心つく頃から、日記の内容は少しずつ歪んでいく。夫の不倫が発覚し、母親の心は「負けてはならない」という強迫観念に支配されていった。

『麻友は完璧でなければ。誰にも負けてはダメ』
『なぜ姉さんのようにできないの!』

成績優秀な姉と常に比べられ、麻友が少しでも劣ると、母親は彼女を折檻した。姉は、そんな妹を庇おうとはしなかった。ただ、冷たい目で見ているだけだった。
だが、日記の最後には、母親のインクが滲んだ文字で、こう綴られていた。

『今日も麻友を叩いてしまった。ごめんね。本当は、誰よりも愛しているのに。ごめんね、麻友…』

「う…、ああ…っ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

独房に、獣のような嗚咽が響き渡った。
「私は…ただ…幸せにならなきゃって…!お母さんのために、完璧にならなきゃって、ずっと思ってたのに…!」
麻友は日記を胸に抱きしめ、子供のように泣きじゃくった。その日を境に、彼女は憑き物が落ちたように穏やかになり、自身の犯したすべての罪を認め、静かに受け入れたという。

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