彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…
「僕のお父さんだ!」
エントランスホールに響き渡った柊の無邪気な声は、まるで時を止める呪文のようだった。
秋太は凍り付き、京子は血の気が引いていくのがわかった。
「こ、この子ったら!人違いよ、柊!」
京子は我に返り、慌てて柊を自分の方へ引き寄せる。そして、作り笑顔で秋太に向き直った。
「申し訳ありません、副社長。息子が、雑誌か何かで拝見したお顔と勘違いしたようで…。お見苦しいところを失礼いたしました」
早口でまくし立て、一礼する。これ以上、この場にいてはならない。柊の手を強く引き、逃げるようにその場を去ろうとした。
「待ってくれ」
背後から、静かだが有無を言わせぬ力強さを持った声がかけられる。
「その子の名前は?」
「……」
「名前を、聞いている」
秋太の視線が、突き刺さるように痛い。京子は唇を噛み締め、消え入りそうな声で答えた。
「…柊(ひいらぎ)です」
その響きは、雷となって秋太の全身を貫いた。
脳裏に、7年前の光景が鮮やかに蘇る。偽りの結婚生活の中で、唯一心が通い合ったように感じた、あの穏やかな夜。ソファでくつろぎながら、「もし子供が生まれたら」と未来を夢見て語り合った、短いけれど幸せだった時間。
『冬に強い柊みたいに、芯の強い子がいいな』
自分が何気なく口にした言葉を、彼女が覚えていてくれた。そして、その名を、たった一人で産み育てた息子に与えてくれた。
その事実に、喜びと、胸が張り裂けそうなほどの切なさが同時に込み上げる。目の前の小さな男の子が、間違いなく自分の血を分けた息子であると、魂が叫んでいた。
7年間、この子の成長を見守れなかった後悔が、鋭い痛みとなって胸を刺す。初めて「パパ」と呼ばれた日も、初めて歩いた日も、自分はその場にいなかったのだ。
万感の思いを、秋太はかろうじて一言に押し込めた。
「…そうか。いい名前だ」
その声は、自分でも驚くほど穏やかに響いた。だが、内心は激情の嵐が吹き荒れていた。今すぐ彼女の腕を掴み、すべてを問い質したい。なぜ一人で抱え込んだのかと。そして、もう離さないと、この場で叫びたい。
だが、秋太は、込み上げる激情を理性の奥底に無理やり押し殺した。
今、ここで彼女を問い詰めてはならない。怯えさせ、心を閉ざさせてはならない。7年間、彼女がどれほどの覚悟で生きてきたか。その覚悟を、自分の感情で踏みにじるわけにはいかない。
これは諦めではない。必ず、君とこの子を、俺の腕の中に取り戻す。そのための、一時的な戦略的後退だ。
そんな決意を秘め、秋太はあえて平静を装い、ゆっくりと一歩横にずれた。それは、二人が通るための道を開ける、紳士的な仕草だった。
しかし、その目は、去っていく楓と柊の小さな後ろ姿を、決して二度と離さないと誓うように、強く、熱く見つめ続けていた。
エントランスホールに響き渡った柊の無邪気な声は、まるで時を止める呪文のようだった。
秋太は凍り付き、京子は血の気が引いていくのがわかった。
「こ、この子ったら!人違いよ、柊!」
京子は我に返り、慌てて柊を自分の方へ引き寄せる。そして、作り笑顔で秋太に向き直った。
「申し訳ありません、副社長。息子が、雑誌か何かで拝見したお顔と勘違いしたようで…。お見苦しいところを失礼いたしました」
早口でまくし立て、一礼する。これ以上、この場にいてはならない。柊の手を強く引き、逃げるようにその場を去ろうとした。
「待ってくれ」
背後から、静かだが有無を言わせぬ力強さを持った声がかけられる。
「その子の名前は?」
「……」
「名前を、聞いている」
秋太の視線が、突き刺さるように痛い。京子は唇を噛み締め、消え入りそうな声で答えた。
「…柊(ひいらぎ)です」
その響きは、雷となって秋太の全身を貫いた。
脳裏に、7年前の光景が鮮やかに蘇る。偽りの結婚生活の中で、唯一心が通い合ったように感じた、あの穏やかな夜。ソファでくつろぎながら、「もし子供が生まれたら」と未来を夢見て語り合った、短いけれど幸せだった時間。
『冬に強い柊みたいに、芯の強い子がいいな』
自分が何気なく口にした言葉を、彼女が覚えていてくれた。そして、その名を、たった一人で産み育てた息子に与えてくれた。
その事実に、喜びと、胸が張り裂けそうなほどの切なさが同時に込み上げる。目の前の小さな男の子が、間違いなく自分の血を分けた息子であると、魂が叫んでいた。
7年間、この子の成長を見守れなかった後悔が、鋭い痛みとなって胸を刺す。初めて「パパ」と呼ばれた日も、初めて歩いた日も、自分はその場にいなかったのだ。
万感の思いを、秋太はかろうじて一言に押し込めた。
「…そうか。いい名前だ」
その声は、自分でも驚くほど穏やかに響いた。だが、内心は激情の嵐が吹き荒れていた。今すぐ彼女の腕を掴み、すべてを問い質したい。なぜ一人で抱え込んだのかと。そして、もう離さないと、この場で叫びたい。
だが、秋太は、込み上げる激情を理性の奥底に無理やり押し殺した。
今、ここで彼女を問い詰めてはならない。怯えさせ、心を閉ざさせてはならない。7年間、彼女がどれほどの覚悟で生きてきたか。その覚悟を、自分の感情で踏みにじるわけにはいかない。
これは諦めではない。必ず、君とこの子を、俺の腕の中に取り戻す。そのための、一時的な戦略的後退だ。
そんな決意を秘め、秋太はあえて平静を装い、ゆっくりと一歩横にずれた。それは、二人が通るための道を開ける、紳士的な仕草だった。
しかし、その目は、去っていく楓と柊の小さな後ろ姿を、決して二度と離さないと誓うように、強く、熱く見つめ続けていた。