彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…

秋太が、呟くように言った。それは絶望の淵から漏れ出たような、か細く、けれど確かな響きを持っていた。
「何を、おっしゃっているのですか?」
京子が振り返ると、秋太は静かに、しかしはっきりと告げた。その瞳には、深い悲しみと、そして揺るぎない決意の色が宿っていた。

「…あなたは、結婚できませんよ。このまま部長と結婚したら、重婚罪で捕まります」
「…!?」
何を言っているんだ、この人は。あまりに突飛な言葉に、京子は一瞬、思考が停止した。
「驚くのも無理はない。でも、事実だ」

秋太は一歩、京子に近づき、逃げ場を塞ぐように言った。
その瞳は、まるで愛しいものを壊さないように、けれど決して逃がさないという強い光を湛えていた。

「7年前、君が置いていった離婚届…。僕、一度も役所に提出していませんから」

その言葉は、静かな爆弾となって京子の頭の中で炸裂した。
(離婚届を、出していない…?)
混乱する頭で、その言葉の意味を必死に理解しようとする。
(では、私は…7年間ずっと…?)

「法的に、君は今も――茅野楓は、僕の妻のままだ」

雷に打たれたような衝撃。
鏡京子という完璧な鎧は、木っ端微塵に砕け散った。
別人になりすまし、復讐のためだけに生きてきたこの7年間、彼の手のひらの上で踊らされていただけだったのか。
私が茅野楓であることも、柊が自分の息子であることも、すべて見抜いた上で彼は今まで…。


どうして。なぜ、離婚届を出さなかったの?
私を憎んでいたはずじゃなかったの?横領犯の妻という汚名を、なぜ消さなかったの?
困惑と、怒りと、そして心の奥底から湧き上がる、説明のつかない感情に、楓は言葉を失った。

秋太は、そんな京子のすべてを受け止めるように、ただ静かに見つめていた。
その瞳は、7年分の後悔と、それでも消えることのなかった深い愛情で、痛いほどに潤んでいた。

京子の世界から、音が消えた。
聞こえるのは、二人の間に流れる、どうしようもなく切ない沈黙だけだった。

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